甘口辛口

おとなしい日本人

2008/6/22(日) 午後 1:59
<おとなしい日本人>


天下分け目の決戦といわれた山口県二区での衆院補選にあたり、自民党の地元ボスが保守系の市民を集めてこう訴えたそうである。

「(全国民が注目している今度の選挙で)民主党の候補者などを当選させたら、山口県民の良識が疑われますよ」

この地元ボスに取っては、多数に随順するおとなしい日本人こそが「良識ある市民」であり、野党を支持する選挙民などはへそ曲がりの異端者なのである。自民党の長期政権がつづいているのは、こうした大勢順応型の国民が多いからなのだ。日本では、大勢に異を唱えれば、それだけで規格外の「ハズレ者」と見られるのである。

朝日新聞の天声人語欄に、世界のホテル業者に一番高く評価されているのは日本人旅行客だという記事が載っていた。逆に最も評判の悪いのが、中国人、インド人、フランス人なのだそうだ。日本人には、ちゃんとルールを守るおとなしい客が多いので、各国のホテルから歓迎されているらしいのである。

ところで私は、昨夜、DVDレコーダーに録画しておいた番組を二つ見た。
一つは、ポーランドの映画監督アンジェイ・ワイダを取り上げたETV特集であり、もう一つは日本兵による南京虐殺を扱ったNHKスペシャルだった。

アンジェイ・ワイダ特集で注目したのは、「カチン虐殺」に関する話だった。「カチンの森」についての私の知識は、最初にソ連側がナチスドイツの行為として非難していたが、蓋を開けてみたら実は当のソ連自身によってなされた大量虐殺だったということくらいだった。今度、この番組で知ったところでは、ソ連軍はポーランド軍将校をはじめ、ポーランドの役人や聖職者を2万2000人も虐殺しているのである。この中にはアンジェイ・ワイダの父親も混じっていたから、彼は最後の監督作品としてこの事件を取り上げた。そしたら、この映画はポーランド国内で300万人もの観客を集めたという。

NHKスペシャルは、一念発起した日本人の手で、日本軍による南京虐殺の一端が明らかにされたというドキュメント番組だった。この人物は事件に関わった兵士の残した「軍隊手帳」や日記を発掘して、地方から応召された一小部隊だけで中国人捕虜2万〜3万人を処刑した事実を暴き出したのだった。

個人としてつきあってみると、ロシア人は善良でお人好しだと言われているし、日本人もおとなしくて礼儀正しいと評価されている。それが、戦争に引っ張り出されて上から命令されると、自制を失って悪鬼のように残虐になるのである。

戦争によっておかしくなるのは、日本人やロシア人だけではない、その他の大国も同じなのだ。アメリカは日本に原爆を落とし、ドイツはアウシュビッツでユダヤ人を虐殺している。

第二次世界大戦が終わってからは、各国とも戦争の惨禍を反省して国際協調を心がけるようになった。が、大局観に欠けた大国の指導者は、しばしば目先の利害にとらわれて愚行に走る。イラク戦争を始めたアメリカ大統領のブッシュや、その尻馬に乗った日本国総理小泉純一郎がそれで、ブッシュを選んだアメリカ国民は自らの過ちに気づいたが、小泉を選んだ日本人はまだ過ちに気づいていない。

全くの話、訳の分からないのが、今も続く小泉人気なのだ。

小泉は竹中平蔵あたりの入れ知恵で、経済を活性化させるには貧富の差を拡大することだと考えていた。労働者派遣法を改悪すれば、企業家は低賃金の労働者を雇うことが出来て、おまけに彼らを何時でも馘首することが出来る。これに累進課税を緩和して、金持ちの税金を安くしてやれば、企業家のふところはますます豊かになり、事業を拡張してくれる・・・・・。

だから小泉純一郎に限らず、目先のことしか考えない政治家は、経済を活性化するために国民の経済格差を故意に拡大する。だが、格差拡大が続けば国内市場はやせて、結局は不況になるのだ。この辺のところを承知しているから、小泉と竹中はいいとこ取りをしてから、さっさとポストを離れた。日本国民もうすうすはこの間の事情を知りながら、小泉人気の呪縛にとらわれたまま、何時までも目が覚めずにいる。

ホテル業者たちにとっても、狡猾な政治家にとって、日本国民はいいお得意様なのである。