甘口辛口

星野仙一の弁明

2008/8/31(日) 午後 3:18

<星野仙一の弁明>


先日、NHKは、「星野監督が語る敗戦の裏側」という番組を放映した。これを見ていいるうちに、星野仙一・山本浩二・田淵孝一の三首脳が実戦から遠ざかっていたことに敗戦の原因があるのではないかと思った。

星野はこんな反省をしている──「指揮官は、選手らの力がオリンピック期間中にトップになるように計らってやるべきなのに、自分はそれに失敗した、これが敗戦の原因だ」と。

監督が、選手たちを傷つけずに試合の結果を総括するとしたら、こんな風にいうしかないだろう。だが、これは公式的な見解であって、彼の本音は別の所にあるらしいのだ。彼は、主審の誤った判定に加えて、自軍の選手らがデータ無視の野球をしたから負けたと考えているのである。

審判員の誤審をあげつらっても、弁解にはならない。誤審による被害は、相手方にも及んでいるからだ。となると、星野監督が一番問題にしたいのは、自軍選手のデータを無視した行動だということになる。

NHKの番組は、スコアラーの活躍に多くの力を注いで報じている。スコアラーは、韓国チームとキューバチームに的を絞り、詳細なデータを集めて来ていたのだ。星野は選手がそのデータをキチンと頭に入れて戦っていれば、あれほど無惨な敗北を喫しなかったはずだと考えているのである。

NHKのスタッフは、星野のこうした判断にそって番組を制作している。

番組は、まず、初戦のキューバとの試合で、主審が如何にでたらめな判定をしていたか、そのため日本チームのダルビッシュ投手が如何に苦しんだかを紹介する。それから、データの問題に移り、テレビは「相手チームについては、全くデータ通りだった。選手たちが、そのスコアラーの努力を無にしてしまった」と無念そうに語る星野の表情を映し出す。そして、データがいかに正しかったかを映像付きで証明して行くのだ。

スコアラーはオリンピック前にキューバチームに付きっきりで、主力バッターの特徴を洗い出していた。そして最も警戒すべき某打者は高めの球に強いから要注意と警告していたのだった。それなのに、ダルビッシュ・里崎のバッテリーはその打者に高めの球を投げて点を取られている。反対に、データを頭に入れて打席に立った日本チームの四番打者新井は、韓国戦で2点ホームランを打っている。相手投手が、インコースを意識させておいてアウトコースにスライダーを投げることをデータによって予測していたからだ。

確かに、選手にも問題はあったかもしれない。しかし、やはり現場から離れていた星野の采配ミスが、大きいのである。

彼はテレビで岩瀬をストッパーとして繰り返し使った理由を、こう説明していた。

「岩瀬は一イニングだけなら、確実に抑えてくれるからだ」

一イニングだけなら大丈夫だというのは、星野が過去に受けた印象に過ぎない。しかし今年の岩瀬が調子を落としていることは、多くの関係者の知るところだったのである。

星野は又、故障者を入れ替えなかったことについても苦しい弁解をしている。規約では、登録選手の変更を自由に行えるようになっているのに、彼は、「選手を信じてやらなきゃダメだ」という理由で、問題のある選手をそのまま北京に連れて行ってしまったのだ。彼はアジア予選で活躍した選手のイメージを忘れることが出来なかったのである。

短期決戦で勝利をしめるためには、現在時点で調子のいい選手を選び、要所要所で彼らを惜しみなく投入しなければならない。ソフトボールの監督は、上野投手に三連投を命じているのだ。だが、星野はダルビッシュを出し惜しむかと思えば、エラーの多い選手を使いつづけ、選手起用に一貫性がなかった。

これらは彼が実戦から遠ざかり、勝負カンに衰えが来ていたためと思われる。そして、同じような弱点を盟友の山本浩二、田淵幸一も抱えていたのである。

スポーツ紙記者によると、選手の不満はコーチ陣にも向けられていたという。田淵コーチに対しては、次のような批判が集中した。

「ミーティングで低目を振
るな、高めもボール球に手
を出すなとあれもダメ、こ
れもダメと消極的な指示ば
かりを出すので、選手が思
い切ってバットを振れなく
なっていった。打線が湿っ
た大きな要因は田淵コーチ
のこのネガティブ指示にあ
った」

山本コーチに対しても厳しい批判が寄せられている。

「守備位置の指示やシフトの変更などはほとんど宮本慎也主将(37)に任せきりで、三塁コーチに立ってもサインを出すタイミングが遅いために選手がイライラする場面が何度もあった」(以上は「週刊文春」の記事から)

田淵も山本も、コーチ、監督時代にはそれなりの実績を残している。だが、現場から離れていれば、カンが鈍り、危機への対応も鈍くなるのは致し方のないことなのだ。そして、こうしたカンの鈍った三名が「お友達内閣」を作って日本代表チームを率いたのである。

仲良しの友人というものは、あたりさわりのない欠点については互いに助言することがあっても、相手の急所に触れるような批判はしない。友情が永続するのは、相手に致命傷を与えるような批判を互いに慎んでいるからなのだ。

球界にあっては既に長老格になり、実戦から遠ざかっている星野らは、総監督というようなポストに退いて現場の指揮は別の人間に任すべきではなかろうか。星野仙一は、若い選手たちに一目置かれているというから、総監督として、例えばダルビッシュが同じホテルに愛妻を泊まらせているのを知ったら、「こらっ」と一喝するような役回りを引き受ければいいのである。

アメリカチームとの対戦中、日本チームの首脳陣は相手から三つのアウトを取っていることに気づかず、田中将大投手に投球を続けさせるという前代未聞の椿事を引き起こしている。

星野監督は、お友達内閣という批判に対して「お友達で何が悪い。仲がいいから、言いたいことを言い合えるんだ」と反論している。三人が、あわや「4アウトゲーム」をやりかけたことを考えると、星野監督の言葉もあまり説得力がないのである。