甘口辛口

泰葉と麻生太郎

2008/11/2(日) 午後 1:46

<泰葉と麻生太郎>


泰葉の離婚会見をTVで見て以来、泰葉という女性に興味を感じるようになった。

TVで見る彼女の表情やしゃべり方がひどく幼くて、何となく女子大生を思わせた。だから、漠然と彼女の年齢を20代半ばと思いこんでいたのだが、実際は何と47歳だったからだ。私がそんな錯覚を持ってしまったのは、泰葉のことはもちろん、彼女の父親の林家三平や彼女の夫の小朝に関する知識をほとんど持っていなかったためだろう。

その泰葉が暴走して、元の旦那への悪口雑言をブログに書き散らしていると聞いたので、早速、そのブログを覗いてみたが、ブログ云々は誤伝だったらしく小朝氏に対する非難は見あたらなかった。その代わり、「クソババア」を弾劾する記事が並んでいた。だが、クソババアが誰で、クソババアがどんな不埒なことをしたのか書いてないため、ブログを読んでみても何のことやら一向に訳が分からなかった。

そのうちに、彼女が事情を説明し、事件の終結宣言をするという日がやってきた。TVというTVは一斉にその様子を放映したから、こちらもイヤでもその一部始終を眺めることになる。

会見場に現れた泰葉は、待ちかまえている報道関係者の多さにひるんだふうで、最初は言葉に詰まる場面もあったりした。が、やがて気分が昂揚してきたらしく、彼女は調子に乗ってしゃべり始めた。その説明によると、彼女が小朝に対する怒りを爆発させたのは、明治座で「林家三平物語」という出し物の演出をするはずだったのに、その約束を破ったためだった。

泰葉は離婚会見の時のように、一同を面白がらせようとしていた。

だが、彼女はあまり気負いすぎて、記者たちから期待していたような反応を引き出すことが出来なかった。前回の会見では彼女が発言するたびに記者たちの間に自然に笑いが起こって、泰葉への好意的な空気が醸成されていたのだが、今回は笑声がほとんど起こらず、会場に白けた空気が流れていた。

彼女は、自分が小朝に対していかに乱暴な言葉を浴びせたか説明しようとして、「金髪豚野郎なんてのは、ゆるいほうで、もっとひどいことを言ってやったんです」」と、元亭主に投げつけた、ひどい言葉なるものを紹介した。

「切腹しろ、私が介抱してやるからと、言ってやりました」

これでは何のことやら意味がわからない。彼女は、「切腹しろ、介錯してやるから」というべきところを、介抱してやると言ってしまったのだ。これだと、相手を侮辱するどころか、愛情を示すセリフになってしまう。

フロイトには、有名な「言い間違えの心理」というのがある。言い間違いの中にこそ当人の本当の気持ちが表れるという理論だ。彼女は、その他にも記者たちへのサービスから、洒落にもならない洒落を口にしたりしたが、やはり笑いは取れなかった。一人で浮かれているという空しい印象を一同に与えただけで会見は終わった。

前回女子大生に見えた泰葉が、今回はもっと幼く見えたのもやむを得ないことだった。47歳になるオバサンが、高校一年のわがまま娘に見えたのだ。人気取りのために設定した記者会見が、逆効果になってしまったのだ。

これと同じ失敗をしたのが、麻生太郎だった。

彼は自民党の総裁選で大勝し、次の首相には誰が望ましいかという世論調査で小沢一郎に大差をつけたことで、すっかり自信を持ってしまったと言われている。この余勢を駆って国会を解散すれば、自民党の勝利は疑いなしと信じた彼は、意気揚々と国会を召集した直後に衆院を解散すると「文藝春秋」誌上で宣言したのである。

しかし、その後の調査で、国民の麻生内閣に対する評価が期待したほど高くないことが明らかになると、彼は動揺してしまった。動揺はしたが、彼は生来の自信家だったから、自分が国民に直接訴えかければ麻生人気が再燃するだろうことを信じて疑わなかった。

彼は人気取りの第一歩として、夢よもう一度とばかり、秋葉原に出かけてオタク族に呼びかけた。前々回、福田康夫と総裁選を争ったときには、秋葉原で演説をしたら、聴衆の間から「麻生!」「麻生!」という声援が自然発生的に起きたものだった。また自分がマスコミを引き連れて、秋葉原に乗り込めば、あの声援が再度わき起こるはずだ。

だが、気負って乗り込んで行ったけれども、「麻生!」「麻生!」という歓声はついに起こらなかった。首相を迎えるオタク族の目は醒めていた。

これはいけないと、庶民のなかに飛び込み、スーパーで賽の目に切ったカステラを食べて見せたが、翌日の新聞には首相がスーパー視察の後で、ホテルか何かで贅沢な夕食を取ったことが暴露されて、世情視察のパフォーマンスは逆効果に終わった。

泰葉の場合も、麻生太郎の場合も、ウケ狙いのパフォーマンスは成功しなかったばかりか、逆効果になったのである。古来、人気取りのための小手先の演技が成功した試しはないのだ。

パフォーマンスを成功させるには、小泉純一郎に見るような即興的な才能が必要で、即興的な才能を発揮するには生まれつき詐欺師的資質に恵まれていなければならない。

並の人間は地道に行動し、自分が世に受け入れられるかどうかは天命に任すことである。