甘口辛口

他国民への蔑視

2009/12/3(木) 午後 6:37

  (天竜川)

<他国民への蔑視>


アメリカの少年らが、道路にロープを張ってバイクに乗った日本人女性に重傷を負わせるという事件が起きた。日本の警察は、取り調べのため、この少年たちの引き渡しを要求しているが、アメリカ軍は拒んでいるという。少年たちは、日本に駐留する米国軍人の子弟なのである。

米国軍人の子弟が目に余る行動に出る事例は、米軍占領下の日本ではよく見られた。私が雑誌で読んで今も記憶しているものに、高台の駐留軍住宅に住む少年らが、眼下の道路を通行する日本人めがけて岩を転がり落としたというケースがある。

度を越したイタズラは、もちろん少年たちによるものばかりではない。占領下にあっては、米兵によるイタズラが数多く見られた。アメリカ軍はシラミ駆除を名目に、時々、通行人を呼び止めて着ているものにDDTを撒布していたが、この時、若い娘などに頭のてっぺんから爪先まで、全身に白い粉末を浴びせかける事例が跡を絶たなかった。東京にいた頃、目と口だけを残して全身真っ白にされた市民を、一再ならず見かけたものだ。

もっと、ひどい例がある。ある日、学生仲間の友人が頭を包帯でぐるぐる巻きにして登校してきたので理由を聞くと、映画館の前で切符を買うため列を作っていたら、酒に酔った米兵が通りかかって、いきなりビール瓶で彼の頭を殴ったのだという。こうしたことをされても日本人は抗議する手段を持たず、泣き寝入りするしかなかった。

田舎に帰省したら、嘘か本当か、こんな話も聞かされた。結婚式場に向かう日本人花嫁があまりに可愛かったので、これを道で見かけた米兵たちが彼女をクルマに乗せて部隊に拉致し、寄ってたかって、顔にキスしたというのだ。彼らは、さすがに暴行することはなかったが、顔の白粉をすっかり剥ぎ取られた花嫁を元の道路上に放置して、そのまま立ち去ったそうである。

私が体験したのは、被害といえるほどのものではなかったが、考えて見たら、やはりおかしなことだった。道路を歩いていて、ジープに乗った米兵から尻を叩かれたのだ。叩かれて何事かと思ったら、助手席に座った米兵が手にした板で、こちらを背後からひっぱたいたのだった。米兵を乗せたジープは、通行人の尻を片っ端から叩きながら前方に走り去った。

米兵の横にはクルマを運転する仲間が乗っていたから、この兵士も共犯者だったのである。彼は同僚が行動しやすいように、ジープを通行人の横すれすれのところに走らせ、同僚のイタズラを見て楽しんでいたのである。

日本が独立を回復してから、日本に駐留する米兵やその家族はあまりひどいことをしないようになった。が、今回のロープ殺人未遂事件に見るように、米国人には日本人を見下している心理があるのだ。アメリカ兵は、ドイツ占領中、ドイツ人に対してこんなようなことをしていたろうか。

ドイツ人の戦犯は、国際裁判でユダヤ人への人種差別を追求されたときに、アメリカだって日本人を差別しているではないかと反論している。原子爆弾をドイツにではなく日本に落としたのは、有色人種である日本人を蔑視していたからだというのだ。戦争中、アメリカでは、日系アメリカ人を収容所に監禁したが、ドイツ系アメリカ人、イタリア系アメリカ人には手を加えなかった。

米国人は、今も変わらず日本人を見下している。そのことは、沖縄の米軍基地を何時までも撤収しないことからも判明する。市民の家が密集する都市の真ん中に基地を設置し、学校の真上をジェット機やヘリコプターを飛ばして平気でいる米軍や、知ってか知らずか、それを黙認している本国のアメリカ人らは、日本を格下の国家と考え、日本人がアメリカに奉仕するのは当然と見ているのである。

日本人は、アメリカに占領されている間、米国人に反抗することも、米兵を殺害することもなかった。こうしたことは、史上、希有のことだったといわれる。こうしたこともあって、アメリカのマスコミは、日本を米国の意のままに動く下僕同様に見て来たから、鳩山首相が、「今後、日米は対等の関係でやっていきたい」と語ると、たちまち鳩山を反米主義者と決めつけて騒ぎ始めたのである。

金丸信は防衛庁長官時代に、アメリカ軍に対して「思いやり予算」をプレゼントした。だが、東西冷戦時代に、日本はアメリカに対して前線基地を提供していたのだから、アメリカが日本を無償で守るのは当然のことだったのだ。

アメリカは基地を貸してくれた同盟国に対して賃借料を出すことはあっても、思いやり予算に類似する金を要求したことはない。日本だけが、家主が借家人に金を支払うようなことをして来たのである。

こう書いてくると、民族派や反米保守派と同様に、アメリカを攻撃しているように見えるかもしれない。事実、アメリカを非難しているのである。だが、アメリカを非難するためには、日本が敗戦までアジア諸国に対してアメリカと同じことをしてきた事実を反省した上でなければならない。

田母神元空幕長をはじめ、保守右派の面々がなぜあれほど中国に敵意を示すのか、不思議なくらいである。彼らは昨日亡くなった平山郁夫に対してさえ、「絵描きのくせに、日中友好を唱えている」と非難していたほど、中国を嫌っている。推察するに、中国を蔑視してきた彼らは、それ故に中国の経済発展に恐怖を感じているのだろう。これまで一段低く見ていた相手に追い抜かれそうになると、恐怖感はいやますのである。

弱者を蔑視する意識と、強者に下僕として仕える心理は背後で繋がっている。反米保守派、民族派は、反米の看板を掲げながらそのためにほとんど動かず、中国非難だけに血道を上げて来たのだ。小泉純一郎は首相時代に日米関係さえ強固にしておけば、対アジア外交は自然にうまく行くと放言して、ブッシュ大統領の機嫌を取り続けた。アジア諸国を見下し、アメリカに対してだけ犬の姿勢で忠勤を尽くす日本は、当のアメリカからすら軽く見られ、アメリカ少年のロープによるイタズラを許すようになったのである。

日本人が、弱者を侮蔑せず、強者に対して毅然とした態度を取るようになり、かつまた日本国がいかなる国とも友好関係を保つようになったとき、わが国は初めて世界から敬意を払われるようになるのである。