甘口辛口

テレビを見ながら

2011/11/27(日) 午後 9:52
テレビを見ながら

大相撲がはじまると、ほぼ毎日、幕内後半の取り組みを見ている。時間にすれば20分内外にすぎないから、私などは相撲のファンとは到底いえない。しかも、興味の半分は、取り組みそのものよりも、土俵のまわりに座っている観客を観察することに向けられているのだからなおさらである。

今回の九州場所でも、土俵周りの観客席に、地方場所につきものの光景が見られた。テレビ画面の向かって右寄りの位置に、着物姿の女客が座っているのだ。年齢はまだ30前と思われる「美女」の部類に入る女性で、これが一日も欠かさず同じ桟敷に現れて土俵の目をやっている。

彼女が時折隣の座席の客と話をしているところをみると、そして隣席の客が毎日異なるところをみると、彼女は隣り合わせの二座席を15日分予約しているのである。こういう光景を大阪場所でも、名古屋場所でも見ている。彼女らは、九州場所の女と同じように、テレビ画面に向かって右手の定位置に座り、15日間ぶっ通しで、同じ席から取り組みを見ていた。そればかりか、彼女らは毎日異なる男女を隣席に招いて、勝負の合間に雑談している。彼女らも土俵の近くに二人分の座席を予約しているのである。

これらの女たちは、料亭かバーか、とにかく水商売を自力で経営しているマダム・女将に違いなかった。彼女らは、出入りの女たちを慰労したり、大事な顧客へのサービスのために、座席を二人分予約しているのだ。そう推測したのは、彼女らがいつでも高価らしい衣装を身につけて、上に立つ人間に特有の落ち着きを見せているからだった。

九州場所の女が、日替わりで違う着物を着て現れるところをみると、相当な衣装持ちと思われた。真っ白な着物から真っ黒な着物にいたるまで着物には様々なバラエティーがあって、老人の私の目を楽しませてくれていたのだが、一日だけ彼女が服を着て現れたことがあった。いよいよ彼女の和服も種切れになったのかと思っていたら、その翌日にはまた和服姿で現れたので、他人事ながらほっとしたのである。

水商売の女といえば、九州場所には丸髷に髪を結った芸者が現れる。これは芸者置屋の主人が、抱え芸者のために桟敷席を一つ予約してやっているらしく、毎日、違った芸者がその席に座っていた。こっちの方は、正直にいって興醒めだった。中年を過ぎた芸者が白粉をべったり白壁のように塗り立てて、頭には欧米人が「二階建ての髷」と呼ぶ丸髷をのせて、黙って座っているところを見ると、何かしら異様なものを感じるのだ。

なぜ異様な印象を受けるかといえば、彼女らがあんまり分厚く白粉を塗りすぎるために顔面筋肉を動かすことが出来なくなって、顔がお面でもかぶったように無表情になっているからだった。それでも、芸者が一人ずつ出現しているうちはよかった。九州場所では、15日のうちの一日だけ、芸者たちが群れをなして(といっても10人あまり)観客席に現れる日がある。そんなとき、ずらっと横一列に並んだ彼女らの白壁式に塗り立てた顔や二階建ての髷を見せつけられると、そのステロ・タイプの表情にげんなりするのである。

男性客には、あまり目立ったものは見られなかった。山高帽に金色の色紙を貼り付け、金色の扇子を振りかざすお馴染みの頓狂男が目をひく程度だった。