甘口辛口

ビッグダディの離婚(2)

2013/3/23(土) 午後 10:57
ビッグダディの離婚(2)

さて、ここで「ビッグダディ離婚へ!」を特集している女性週刊誌を開いてみよう。この特集の見出しは、かなり衝撃的なものになっている。

「さよなら小豆島・・・・」
「離婚 そして ”一家離散”へ!」

だが、記事の中身は?ということになると、これが女性週刊誌の特徴というのか、かなり薄手な内容になっている。肝心の離婚については、何も触れていないのである。ビッグダディの親しい知人からの聞き書きという形で、次のような事柄が「会話体」で語られているだけなのだ。

「籍はまだ抜いていませんが、離婚は確定したそうです。ダディが島を出たら、美奈子さんは、連れ子と一緒に九州に引っ越す予定だそうです。(接骨院の)閉店と引っ越しは子供たちの新学期に合わせて、この時期になったようです」

記事によれば、林下さんの家族は岩手に移り、美奈子さんの家族は九州に移ることになっているというのだが、林下さんが岩手に移るのは、そこが彼の故郷なのだからそれなりに理解できる。が、美奈子さんが九州に移る理由については何の説明もないので、読者の頭には「なんで九州?」という疑問が残るのだ。

小豆島の家は、林下さんの名義になっているはずだから、一家離散ということになればこの家は空き家になる。林下さんは、あと5年すれば一番下の子供も高校を卒業して子育ては終わる。そうしたら又小豆島に戻りたいと語っているという。

では、5年後、小豆島に戻って、彼は何をする積もりだろうか。魚を釣るのが大好きだからといっているというが、彼はまだ余生を好きな釣りで過ごすような年ではあるまい(現在47歳)。林下さんは、「小豆島での接骨院経営は完敗だった」と語っている。彼は島に戻って、完敗に終わった接骨院をもう一度立ち上げて再挑戦しようとしているのだろうか。

――私は、これらの記事を読んで、「また、林下さんの悪い病気が出たな」と思った。この人の欠点は、「器用貧乏」ということに尽きるのだが、彼がなぜそうなるかといえば、職業に対する打ち込み方が足りないからからなのだ。

ビッグダディ・シリーズは、林下一家が故郷の岩手から奄美大島に転住するところから始まる。しかし、それ以前にも彼は大家族を率いて頻繁に引っ越しを繰り返し、転々と居所を変えていたのである。彼が引っ越しを繰り返すのは、推察するに接骨院の経営が行く先々で不調に終わるためらしいのだ。

腰痛の持病を抱えている私は、評判を聞いてJRを利用して一時間かかる遠隔地の接骨院に出かけたことがある。そこには院長のほかに二名の助手がいて、寝ているこちらの体を、三人がかりで「エイヤッ」とばかりに引き延ばしてから、夜、斜めにした板戸に布団を敷いて寝るように指示してくれた。

治療を受けた効果はあったけれども、通院するには往復2時間もかかるので、接骨院に行くのはそれっきりにしてしまった。もし接骨院が近くにあったら、腰痛が起きるたびに、そこに通うことになったに違いない。接骨院にやってくる患者には、私のような人間が多いのだから、整体師は魚を釣るような辛抱強い姿勢で客を待ち続け、その客が一度きただけで姿を消しても、諦めないで待ち続けなければならない。客は症状が起きてくれば、また、やってきて、その後は固定客になってくれるからだ。

整体師が客待ちの間に治療法の研究を怠らず、一人一人の患者の症状を注意深く見守り続ければ、接骨院の経営はちゃんと成り立つ筈なのだ。そうすれば、妻女は家にいて家事に専念して、主婦としての技量を高めることもできる。

ところが、林下さんは、辛抱が足りず、接骨院が暇だと家に帰って、子供の面倒から台所仕事まで、主婦のする仕事を全部引き受けてやってしまう。妻女は、何をやっても亭主に及ばないから、子供のしつけも料理も林下さんにまかせきりで、自分は一歩退いて亭主の指示を待つだけになる。

林下さんは、妻が一家の主婦として成長して行くのを辛抱強く待つことができないのである。先妻の通代、後妻の美奈子にとって特に打撃だったのは、夫が子供たち全員の気持ちを掴んでしまうので、彼女らが割り込んで行く余地がないことだった。テレビに映る一家の様子を見ていると、子供たちの目は父親の林下さんだけに向けられていて、母親はいてもいなくてもいい余計者になっている。口には出さないものの、この点について先妻・後妻が内心で強い不満を持っているらしいことは、テレビをちょっと見ているだけで分かるのだ。

先妻の通代の内面に立ち入って想像すれば、これに加えて夫が自分に8人の子を産ませたことについての不満があるのではないかと思われる。夫が妊娠調節のための配慮をしないで、毎年のように自分に出産を強いてきたこと、そして子供が生まれたらその子供たちを手なずけて自分の手兵にしてしまっていることが我慢ならなかったのではないか。

つまり、こういうことなのである。

多彩な才能に恵まれた林下さんは、子供が次々に生まれて大家族になっても、日々を乗り切って行くだけの自信があった。事実、彼は「テレ朝」と一家の生活記録を取材しテレビで放映することを許可する契約を結んで、その契約金で家計の赤字をカバーしてきている。だが、彼の妻たちには、大家族を支えて行く能力もなかったし、全国放送のドキュメンタリー番組に出演する自信もなかったから、夫婦間の溝は拡がっていく一方だったのである。

林下さんは、テレビ会社に全国放送の番組を作らせるに当たって、妻たちの扱い方をもう少し考えてやるべきだったのだ。現実の妻たちは、林下さんの半分の能力もないし、欠点も多い。しかし、それをそのままに描いてしまっては、彼女らの立つ瀬がないのである。

「なんとか、なるさ」を行動原理とする林下さんは、接骨院の経営に行き詰まると転居して新天地を求め、妻が無能だと離婚して新しい女と再婚してきた。そして、今また、接骨院の拠点を移し、美奈子と離婚して家庭生活を一新しようとしている。こういう新規蒔き直し政策が、いつでも成功すると思っていたら、道を誤ることになる。林下さんの体力も、そろそろ限界に近づいているだろうし、世間も林下さんの行動を許さないようになるかもしれない。

林下さんは、先妻の通代と別れて美奈子と結婚し、奄美大島に帰ろうとしたら、奄美の人々がそれを拒ばんだことを忘れてはならない。