甘口辛口

石原慎太郎の愛国心(1)

2013/3/27(水) 午後 5:16
石原慎太郎の愛国心

このところ石原慎太郎の消息を聞かないので、どうしたのかと気にしていた。そしたら、新聞に、石原家について特集を組んでいる「週刊朝日」の広告が出ていたので、早速、同誌を買いに出かけた。

この時期の「サンデー毎日」、「週刊朝日」は、競って「東大・京大合格者数ランキング」を特集しているので、本当はこの手の週刊誌は買わずに済ませたいのだが、石原慎太郎の消息を知るためには、買わざるを得なかったのだ。

本題に入る前に、東大合格者数の件について触れておけば、最近の傾向として公立高校から東大に合格する生徒の比率が増えてきたという。だが、それは東京及びその周辺の高校の話であって、地方の高校ではその逆の現象が現れている。

私が教員をしていた頃は、人口7万人の当市の高校でも、東大合格者が毎年5〜6名はいたのである。だが、今や、現役で東大に合格する生徒は1〜.2名ということになっているらしい。

その理由は、明らかだ。

東大に合格する生徒が、本当に優秀かどうか疑問だが、とにかく彼らが受験のエキスパートであることに疑いないだろう。この受験の専門家たちは、東大を出てから田舎に帰ってくることはほとんどない。彼らは東京で就職し、鵜の目鷹の目で東大出身者を狙っている東京娘たちに射落とされて、東京及び東京近郊に永住することになるのだ。

この東京娘たちも大学出身者で、すこぶるプライドが高く、子供が生まれると東大に入れるために渾身の努力を傾注する。父親は受験の専門家、母親は東大信仰にこりかたまった学歴信者だから、子供たちも東大でなければ学校ではないと言わんばかりの必死の形相で受験勉強に精を出す。

千葉県の公立高校で教師をしていた友人が、笑いながら言っていた――「最近は、毎年、東大に合格する生徒が増えているんだ。こっちは、何もしないのにね」

こんな状況を見ていると、東大だ京大だと騒いでいる週刊誌・雑誌を読む気がしなくなるのである。

さて、「週刊朝日」の特集に目を向けよう。タイトルは、

  「石原ファミリーの落日」

となっている。このタイトルのまわりには、次のような小文字のキャプションが並んでいる。

――父・慎太郎は維新で居場所なし、病室では「船旅に出たい」と愚痴る日々
――長男・伸晃は「サボり疑惑」で権威失墜
――三男・宏隆は選挙違反疑惑でピンチ

長男、三男の問題は置いておいて、石原慎太郎の近況について見ていくと、一橋大時代からの彼の友人は、こう語っている。

<(・・・・・慎太郎氏の妻が物を取ろうとした際、脚立から転落し、足を骨折して入院した。そのため慎太郎氏の面倒をみる人がいなくなつたので、自分も病院に入ったのだという)「入院前は、自宅で一人で憮然と酒をあおっていたよ。『都知事を辞めなきやよかった』って口にするから、『俺の前だけにしておけ』と言ったんだけど、方々で言って回つてるんだよな。石原は、今、すべてに嫌気がさしているんだ」>
 
私は、以前、当ブログに「石原慎太郎の春」という駄文を載せたことがある。

彼が前回の都知事選挙に立候補したとき、石原候補の傲慢無礼な印象を薄める必要を感じたブレーンから、「とにかく選挙運動中は何時もニコニコしていてくれ」と注文された。それで彼はいたるところで笑顔を振りまいていたのだが、こういう石原慎太郎の変身は人々の注意を集め、当時、都知事選挙を取り上げたテレビ座談会で、ある出席者は、石原のことを、「赤頭巾ちゃんのオオカミだな」と批評したのだった。

赤頭巾ちゃんの童話は、原作では残酷な結末で終わっている。病気の祖母を見舞いに出かけた赤頭巾ちゃんは、祖母に化けたオオカミに食われてしまうのだ。

石原都知事がこれまでにやってきたことは、まさしくオオカミの所業だった。彼が食べてしまった赤頭巾ちゃんとは、ヒューマニズムそのものにほかならなかった。彼が飽きもせずに繰り返す暴言には、赤い糸のようにアンチヒューマニズムの信条が隠顕していた。年老いた女性をババア呼ばわりするかと思えば、障害者への差別発言をしたり、「三国人」を犯罪者扱いにする、挙げ句の果てに、彼は都の教育委員会を動かして「君が代問題」を口実に「愛国心のない?数百人の教職員」を処罰に追い込んでいる。

タフガイを気取る無思慮な若者たちや知恵足らずの右翼の面々は、弱者や少数者、そして「人道主義者」を蔑視して粋がって見せる。こういう若者に迎合する石原知事の心事には、ポピュリズムに基づく計算だけにとどまらず、自らの本心を吐露するという側面もあったのである。

話は飛ぶけれども、ここで辻まことの「虫類図譜」から、「愛国心」という図譜を引用したい。辻まことは、関東大震災の折に憲兵大尉甘粕に虐殺された伊藤野枝とダダイスト辻潤の間に生まれた画文家である。

         愛国心
<悪質きわまる虫。文化水準の低い国ほどこの虫の罹患者が多いという説があるが、潜伏期の長いものなので、発作が見られないと、羅患の事実は解らない。心臓に寄生するというのも、解剖学的に証明されたわけではないからなんともいえない。過去にこの島では九十九%がこの発作による譫妄症状を呈したことがある。
死ぬまで治らぬ後遺症状があるから、現在、この島の住民は、その健康を信ずることができない>

辻まことは、この短文に並べて、「愛国心を持った虫」の図(下図)も描いている。イメージ 1

4枚の羽にたくさんのかぎ爪がついているのは、気に入らない外国や愛国心のない同胞にやたらに攻撃を加えるためだろう。

(つづく)

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