甘口辛口

「ハダカの美奈子」を読む(1)

2013/5/10(金) 午前 10:27
「ハダカの美奈子」を読む

テレビで放映中(?)の「ビック・ダディー」シリーズを初回からずっと見ている。このシリーズの主役・林下清志氏(以下敬称略)が一家の当主として抜群の統率力を持っていたからだ。他のテレビ局も、競って、それぞれ別の子沢山家族番組を発足させていたが、それらの番組はいずれも「ビック・ダディー」シリーズの魅力には及ばなかった。これらの家族には、林下清志のような優れたリーダーが欠けていたからだ。つまり、スターが不在の番組だったからなのだ。

しかし、毎回、この番組を見ているうちに、スター林下清志に対して疑問を感じるようになった。林下一家がテレビで取り上げられるようになったのは、現代日本では夫婦が1〜2人しか子供を産まないという少子化時代に入っていたからだった。そんな時代に、平然と8人もの子供を産み育てている人物がいるということ自体が人々を驚かせたのだ。

私たちは、林下一家を少子化時代における例外的な特異事例として眺め、その特異性に対して単純に脱帽した。だが、子供を育てる経済的条件を欠いたままで、夫婦が次々に子供を産むことは、幸せなことだろうか。それは、親にとっても子供にとっても不幸なことではないか、そんな疑問が浮かんでくるのである。

林下清志は、せっせと商売に励み、経済的な余裕が生まれてきた時に、その余裕が許す範囲で、子供を産み育てて行くべきだったのではないか。彼は子育てに喜びを感じるタイプの父親に見える。けれども、彼はただ自らの性的欲求の強さに負けてしまった人間なのではないか。

私は、林下清志に現在も以前と変わらぬ敬意を払っているが、以上のような疑問が浮かんでくることも禁じ得なかったのだ。彼は今、人生設計を部分的に修正しなければならぬ段階に来ているように思うのだ。

彼は、元妻の佳美と離婚した後に同一人と再婚している。が、それも束の間のことで、佳美と再度離婚したのちに、前妻美奈子と結婚し、その美奈子とも二年後に離婚している。この結婚、離婚を慌ただしく繰り返すところに、彼の性格の一面が現れているように思われる。これは、彼がこれまでに頻繁に転居し、転職してきた事実とも無縁ではないと思われるのだ。

私の目下の課題は、林下清志という特異な男のパーソナリティーを知ることである。それを考えるに当たって、林下清志とその前妻美奈子が出版した本を読むことからスタートするが、美奈子の本から始めるのは、まだ、林下清志の方の本が手に入らないという単純な理由からだ。

──林下美奈子(彼女は離婚後も「林下」の姓を使っている)の「ハダカの美奈子」は、タレント本の一種として出版されたと思われる。が、普通のタレント本とは随分違っている。他の著者なら、ひた隠しに隠すだろうような自身の汚点を、美奈子自身が大胆に明らかにしていくのだ。彼女は、自分には覚醒剤、万引きの前科があり、15歳で妊娠し、背中には大きな入れ墨をしていると告白する。何と、この本には、美奈子の入れ墨を撮影した写真まで掲載されているのである。

美奈子が読者に知ってほしいと願っているのは、彼女が父親と元夫から過酷なDVを受けて来たことについてらしく、著書の力点もそこに置かれている。トヨタ自動車の技術者をしていた父親は、勤め先で何か面白くないことがあると、帰宅して美奈子に暴力をふるったという。4歳年下の彼女の弟や母を攻撃しないで、当時、中学生だった美奈子を集中的に痛めつけたのである。

夜、家に戻ってきた父は娘に向かって、「家の中を掃除しろ」と命じ、気が済むまで娘を働かせる。夜が更けてきて、美奈子が疲労から眠ったりすると、父は拳固で彼女を殴りとばすのだ。美奈子は何度も失神したと書いている。

夜遅くまで働かされたり、殴られたりするため、彼女は毎日睡眠不足だった。登校しても机に伏せて眠ってばかりいた。授業には出ないし、教室に姿を現せば寝てばかりいる彼女は、級友の目には不良として映った。中学を出て高校にはいると、中学生時代の美奈子の評判は高校のヤンキーたちにも知れ渡っていた。

高校生になった美奈子は、ある日、高校のヤンキーたちから呼び出された。びくびくして彼女らの前に出たら、ヤンキーたちは親しげに、「友達になろうよ」と話しかけてきたのだ。
「アンタ、藤岡中学校では、相当なヤンキーだったんだってね」

そのヤンキーたちに誘われて、彼女らの家に遊びに行く。すると、彼女らは、髪を金色に染めてくれた。そして唇に塗るようにと目の覚めるような紫色の口紅を貸してくれた。

家に戻ると、娘の金髪を見て激怒した父が、美佐子の髪の毛をつかんで引きずり回し、繰り返し殴る。だが、美奈子は、もう、父に対して恐怖を感じないようになっていた。今や、美奈子にとって門限など、ないも同然だった。夜になれば、友達の家に泊まり、そこから学校に通うのである。彼女は、「私の男を取っただろ」と疑いをかけるヤンキー仲間と、タイマンの殴り合いをするようにもなった。こうなれば、学校側も放ってはおかない、退学を勧告してくる。彼女は、高校に入学して僅か二ヶ月後に、早くも退学している。

この頃、美奈子は同じ中学のひとつ上の先輩と同棲し、15歳で妊娠している。相手の男は、実家から50メートルとは離れていない近所に住んでいるヤンキーだった。そんな男となぜ一緒になったかといえば、実家から脱出するにはそれが一番手っ取り早いと判断したからだった。美奈子は、相手は誰でもいい、結婚して子供を作ってしまえば、こっちの勝ちだと考えたのである。

しかし、さすがに妊娠したことを母に打ち明ける時には、勇気がいった。
「おかーん、あたし妊娠したかも」
「え─、マジで─? じゃあ病院行かなきゃあかんじゃん」
「じゃあ病院連れて行ってよ──」
「いいよ─。明日ね──」
母は、美奈子以上に軽い人で、理由も相手も何も聞かず、娘を責めることもなかった。

こうして彼女は15歳で妊娠し、出産した。だが、まだ若くて法律上結婚できないので、二人はそれぞれの実家で生活し、籍を入れられる日を待つことになった。そして、その日がくると、美奈子は生まれたばかりの男の子を抱いて、男の家に移っていった。

男の父親はタクシー運転手で、家にほとんどいない。結婚した男は、土木作業員になってまあまあ、ちゃんと働いてくれる。それなりの幸福を感じながら、男の家で暮らしているうちに、美奈子は二番目の子供を出産することになった。そして、その子を出産した頃から、男の態度が急変するのである。美奈子は、こう書いている。

<アイツの態度が急変したのは、2001年12月20日に乃愛琉を産んでからすぐのこと。
気が短いアイツは、イヤなことがあるとすぐに会社を変えた。どうやら今回の職場はストレスが溜まるところだったみたい。それまでは趣味程度だったギャンブルに、お金を大量につぎ込むようになってしまった。1カ月分の稼ぎを1日で使い果たすことだってあった。子どもを産んだばかりのあたしは働きに出ることもできなかったから、生活費はアイツの稼ぎに頼るしかない。でもお金はパチンコとスロットにほとんど流れていって、とうとうあたしはキレた。

「オムツ代だってかかるし、仕事に行くのにガソリン代だってかかるでしょうよ。明日からどうやって暮らすんだよ!」
「うるせええええええ」
気づいたら馬乗りで顔をボコボコに殴られてた。背中とか腰とかも蹴られて、髪の毛を掴んで引きずり回されて。容赦なんてない。本気の力で殴り飛ばされた。目も充血して、口の中が切れて血が溢れて…>

(つづく)