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「ビッグダディの流儀」を読む(1)

2013/5/17(金) 午前 0:29

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「ビッグダディの流儀」を読む

林下清志氏(以後敬称を略)の本「ビッグダディの流儀」が届いたので読んでみたら、当方の予想を完全に裏切るような内容だった。私は、彼が「2ちゃんねる」に発表した私小説風の作品を読んでいたので、今度、彼が書き下ろした本も、あの作品の続編になるのではないかと予測していたのである。

林下清志が前回インターネットに発表した作品は、なかなかの力作だったのだ。ストーリーの細部は忘れてしまったので概要だけを述べるなら、作品の内容はこんなふうになっていた。

──林下は最初の妻の佳美が男を作って家を飛び出してしまったので、一人で子供たちを育てている。そこへ男に捨てられた佳美が、戻ってきて林下に復縁を求めるのである。佳美の背後には、やくざ稼業をしている親兄弟がついていて、林下に復縁を承知するように圧力をかけてくる。

林下は佳美を哀れに思って、一度は復縁を承知する。だが、ある日佳美のアパートに立ち寄った林下は、佳美が白昼に男と同衾している現場を見てしまう。林下は、これでは佳美を迎え入れることは出来ないと、態度を翻すのだ。しかし、彼は佳美の兄に復縁することを約束してしまっている。林下が約束を破ったと知ったら、相手は何をするか分からない。

相手が何をするか分からないけれども、林下はどうしても佳美を受け入れる気にはなれなかった。そこで林下は考えあぐねた末に、やくざの流儀に従って指を詰めることで自分の破約を承知して貰うしかないと決意する。こうして林下が切断した指を持参して佳美の兄に会いに行くところで作品は終わっている。

この作品を読んだものは、林下が指を詰めたことを事実と取るにに違いなかった。「ハダカの美奈子」によれば、前妻の美奈子も林下の作品を読んでいたから、彼とデートするようになったときに、指を切断したのは事実かと林下に質問している。林下は、「ああ、切断した。でも、指はまた、生えてきたよ」と人を食ったような返事をしている。

とにかく、彼の前作品は、こんなふうに読者を錯覚させるほど登場人物たちの言動をリアルに描き分けていて、創作としても一定の水準を越えていた。だから、私は、林下の書き下ろした本も前作の調子で書かれており、改めて彼の多彩な才能を示すものになっているだろうと期待していたのである。

ところが、私は、「ビッグダディの流儀」と題する本を読んで、がっかりしてしまったのだ。美奈子の本と比べても、数等落ちる出来ばえで、林下清志が本来持っている人間的な長所が、どこにも出ていない。第一に、林下の本と美奈子の本を比べてみると、林下本が191ページ、美奈子本が166ページとなっていて、ページ数だけは林下本の方が多いが、両者の文章を数量的に比較してみると、林下本の方がずっと少ないのである。

林下本は大きな活字を使っているので、単純計算で1冊全体で8万字を載せるスペースがあるだけだが、美奈子本は活字が小さいために一冊で10万8000字を載せるスペースがある。しかも、林下本と来たら、上記の写真が示すように各章の題字に特大の活字を使って2ページを使っているから、1冊の本が取り込むことの出来る活字数が更に減少している。要するに、林下本は、記載されている文章が数量的に乏しく、かなり手薄な本になっているのである。

では、内容はどうだろうか。

(つづく)