甘口辛口

小型ヒトラーが続出

2013/6/1(土) 午後 4:40
小型ヒトラーが続出

橋下徹という政治家が、そのうちに「たかころび」に転ぶのではないかと思って、以前に彼についてこんなふうなことを書いたことがある。

──TVがバラエティー番組で塗りつぶされている当今、そのTVで人気を博するのは「軽いキャラ」を持ったお調子者たちである。今度、大阪府知事選挙に立候補することを表明した橋下徹弁護士も、どうやらその典型的な一人らしいのである。

ワイドショウを見ていて知ったことだが、彼はその前日まで選挙に出ることを否定し、「立候補の可能性は2万パーセントない」と断言していたそうである。自分の気持ちを表現するのに150パーセントと表現することはちょいちょい耳にしているが、2万パーセントまで風呂敷を広げる例は聞いたことがない。如何にも、お調子者らしいオーバーな言い草である。

この人物の出演するTV番組を見たことがないので、橋下弁護士を知るためにインターネットで調べてみた。すると、彼は光市母子殺人事件の弁護士団を非難して、TV視聴者に懲戒請求を行うよう呼びかけたり、「私は改憲派で、核保有を肯定する」と放言したり、中国蔑視の発言を繰り返していたことが判明した。

自分が弁護士でありながら、仲間の弁護団に対する懲戒請求を呼びかけるなど.到底あり得ない話である。弁護士はどんな極悪人の弁護をも行う立場にあるのだ。もちろん、依頼者の行動が、自らの信条に反する場合には、弁護を断ることはある。が、いろいろな事情で相手を弁護する者がいないときには、自己の信条に反してでも被告を弁護するのが弁護士たる者の職業倫理ではないのか。

光市の事件に多数の弁護士が駆けつけたのは、裁判の局面が被告を死刑にするかどうかの一点に絞られてきているからだ。だから、死刑反対の信条を持つ弁護士たちは座視することが出来ず、応援の為に駆けつけ、弁護団がふくれあがったのだ。

そうした事情を百も承知で彼が懲戒請求を呼びかけるのは、世の多数派が光市事件の被告を死刑にすることを望んでいると読んだからだろう。彼が核保有を肯定するのも、日本人の隠された意識のなかにそうした志向が潜んでいると感じているからだろう。

慰安婦問題に関する橋下徹の主張も、右傾化する日本の潮流を読んだ上のものだった。彼は、日本軍の慰安婦利用を正当化するために、世界中、どこの国でも慰安婦を利用していると強調する。これは殺人犯が、どこの国だって殺人事件が起きているという理由で、自らの殺人を正当化するのと同じ議論なのだ。彼は自分の主張に対して反対論が噴出すると、慌ててマスコミは自分の真意をねじ曲げていると責任転嫁をはかり、記者会見で毎日新聞を悪罵してみせた。

彼らは自分の支持基盤である「大衆」が、タカ派的な意識を下地にして生きていることを知っている。だから彼らは中国や韓国を蔑視する発言を重ね、夜郎自大的な自国賛美を繰り返すのだ。成る程、民衆の意識の中核には、ナショナリズムがある。だが、それと同じ強さで人道意識も存在する。この両者は表になったり裏になったりしながら併存しているのだ。

──こういうことを述べたあとで、私は、「現代はお調子者が受ける時代である。だが、彼ら人気者も、調子に乗りすぎると危ないということを忘れない方がよい。安倍晋三の例もあるのだから」といって、安倍首相の名前を持ちだしている。

首相は前回の首相時代、米国下院で従軍慰安婦問題が取り上げられたとき、「強制には、広義と狭義がある」などと右翼お得意の侵略戦争弁護論を試み、放っておけば自然に鎮火してしまうはずの問題を大火事にしたことがある。それまでアメリカ下院で日本問責決議案に賛成する議員は8名に過ぎなかったのに、安倍首相の発言後は賛成者が80名にふくれあがってしまったのだ。

世界各国のマスコミも一斉にこの問題を取り上げたから、お坊ちゃん育ちの安倍首相は、すっかり震え上がってしまった。彼は「国士」「愛国者」のポーズを取り、政治家を「反対にあっても屈しないタイプ」と「反対にあうと妥協するタイプ」に分け、自分は前者だと胸を張って宣言しているが、本当は彼は金箔づきの臆病者で日和見主義者なのである。

渡米した首相が最初にやったことは、安倍攻撃の急先鋒になっているアメリカ議会の幹部に会って釈明することだった。日米間には懸案の問題がいくつもあったが、それを取り上げる前に、先ず、自分を守るために動いたのだ。ブッシュ大統領に会ったときにも、彼は最初に慰安婦の件で謝罪し、大統領はその謝罪を受け入れていた。首相は韓国人慰安婦に謝罪する代わりに、あろうことかブッシュに謝罪し、大統領は僭越にも慰安婦になりかわってその謝罪を受け入れたのである。これ以上滑稽な話があるであろうか。

橋下徹の慰安婦に関する発言、そして安倍晋三の侵略に関する発言に対して、日本のマスコミは目立った批判をしていない。そのため、アメリカ、イギリス、台湾などの有力紙は、こぞって両名に痛烈な批判を浴びせている。
そして、ついには国連の国際人権機関が、日本に対して次のような勧告を出すに至った。

「日本は、元慰安婦に対して公的な補償を行い、関係者の訴追を実行せよ」

「すべての歴史教科書が慰安婦問題を取り上げることを求める」

これは、国際連盟時代の「リットン報告書」に匹敵する屈辱的な勧告ではあるまいか。安倍晋三も橋下徹も、国際世論から目の敵にされる劣等生に成り下がってしまったのだ。