甘口辛口

日中韓百年戦争

2013/9/13(金) 午後 8:20
日中韓百年戦争

文藝春秋の10月号に、「中韓との百年戦争にそなえよ」という特集記事が載っていた。これは、7人の学者・評論家による座談会を編集したもので、タイトルが示すように、かなり右傾色の濃い内容になっている。

それでも、秦郁彦のタカ派式暴論などをたしなめる発言も記録されていて、一応、全部読むことが出来たのは幸甚であった。

この座談会でも取り上げているように、日中韓の関係は戦後かなりの期間、平穏な状態が続いたのである。中国の毛沢東や周恩来は、日本国民と軍国主義者を区別して、悪いのは軍国主義者であり、日本国民も中国国民も、ともにその被害者だったといって、「千年恨(ハン)」を抱き続けている中国人をなだめてくれたのである。そして、日本から賠償金を取ることを自ら放棄してくれてもいる。韓国の金大中も、周恩来の対日友好外交に倣って、日本に対する友好的な態度を取りつづけた。

これには、中国がソ連と領土問題を巡って砲火を交え、韓国が北朝鮮と睨み合っていたという事情があった。中国も韓国も、いざ開戦となったときには日本の援助を期待していたから、日本に対する強硬な態度を控えていたのだ。それに、農業国から工業国へ脱皮することを計画していた中韓両国は、日本からの資金援助や技術支援を待望していた。両国は、日本から高額の賠償金をむしり取って一時的に財政を潤すよりは、日本から資金援助・技術援助を得て自国を徐々に確実に近代化して行くことの方を選んだのである。

中韓両国が近代国家として発展し始めた頃、ソ連が崩壊してロシアとなり、北朝鮮が農業政策に失敗して飢餓国家に転落するという事態が起きた。こうなれば、もう無理して日本と友好関係を保つ必要はない。時の権力者は、民衆が抱いている日本に対する根深い怨念を利用して、政権を安定させようと考え始めたのだ。

かくて江沢民らの指導層は、反日教育を徹底させて、本来政権に向けられるべき反感と不満を日本に振り向ける工作に着手した。このため、中国や韓国を訪問する日本の要人は、相手国に入国すると、まず過去の侵略行為について謝罪と反省を述べなければならなくなった。

やがて日本の政治家は中韓を訪問するときには、恒例のように相手国民に謝罪しなければならなくなる。その理由は、中韓を訪問した政治家が相手国に謝罪しているときに、その背後の自国で有力政治家が相も変わらず国家主義的な発言をして相手国民を憤激させているからだった。日本国内の自称愛国者らが相も変わらず夜郎自大の言動を続けているとしたら、次に相手国に出かける政府要人は改めてまた相手国民に謝罪を繰り返さなければならなくなるのだ。

たとえば、二ヶ月前の文藝春秋を読むと、石原慎太郎が池上彰との対談でこんなことを言っている。
「中国が相手ならば、通常兵器の戦闘が始まったとしても、日本は向こう10年絶対に負けません。あの島を彼らが間違って占領しても、補給が続かない。日本だけでなく中国の占領に反対する国々が海上を封鎖して輸送ができなくなったら、経済が立ちいかなくなって終わりですよ」

インターネットの世界でも、「ネット右翼」による過激で無反省な書き込みがあり、街頭ではヘイトスピーチが横行している。

タカ派政治家の暴言、そして在日朝鮮人への嫌がらせは昔から年中行事のように繰り返されている。だから、中韓両国の国民は、「日本の政治家はわが国へ来て反省と謝罪の言葉を繰り返すが、日本人はちっとも反省していないではないか」と不信の念を深くすることになる。

中韓両国の国民ばかりではない。この座談会で、元駐韓大使の小倉和夫はこういっている。

[小倉] それから政治的には、中韓以
外の海外諸国が安倍内閣をどう見てい
るかに留意する必要があるでしよう。
慰安婦間頃、靖国問題を含め、ナショ
ナリズム的な考え方をもつ政権である
と、国際社会から見られるようになっ
てしまった。もちろんそれは中韓のレ
ッテル張りや欧米諸国の偏見もあるの
でしょうが、それに反論していくため
には、やはり、日本が民主主義、自
由、人権尊重といった価値を大事にし
ていることを世界に示していく必要は
ある。

──あえて言うなら諸悪の根元は、鬱屈した不満を抱える若者層と、これに媚びる人気取りの政治家なのである。

日本はドイツに学ばなければならないのに、その反対のことをしている。

ドイツでは普仏戦争を手はじめに、二度の世界大戦でヨーロッパ諸国に多くの損害を与えている。その反省から、ドイツ政府は自国が他国に対して犯した罪の数々を明記した教科書を小学生の段階から生徒に読ませ、徹底した平和教育を行っている。

そして成人に対しては、ナチスを賛美するような言説・行動をした場合には法律違反で厳しく処罰している。国をあげてここまで努力しているから、ドイツはヨーロッパ諸国から受け入れられ、EUのリーダーともなりえたのである。

ところが日本では、教育委員会がドイツとは逆の立場から、教科書の書き換えを命じたり、権力を批判した数行の文字があるからという理由で、その教科書の採択を禁止している。こんなことを続けていたら、日本と中韓の関係は抜き差しならぬものになり、本当に百年戦争が起こりかねないところまで行ってしまう。

中国人や韓国民が、その民度の低さから理不尽な反日運動を展開していることも事実である。これに不快感や怒りを覚え、ヘイトスピーチを横行させたり、中国討つべしと放言したりするのは、こちらの民度が低いからだ。

日本は、中韓両国に先んじて成熟国家としての振る舞いを見せなければならないと思う。