甘口辛口

少女らの家族殺害

2014/11/17(月) 午後 1:42
 少女らの家族殺害
 ひと頃は、男子高校生による祖母殺害事件や母親殺害事件が世の注目を集めたが、最近は女子中学生・女子高校生による家族殺害事件が連続して起きている。愚老が記憶している事件だけでも、列挙すれば以下のようになる。
 
 大阪枚方市の中1女生徒による母親殺害
 静岡県女子高校生による母親毒殺未遂
 長崎県佐世保高女生徒(「少女A」)による父親撲殺未遂
 北海道女子高校生による祖母・母親殺害
 埼玉県中2女生徒による祖母殺害容疑
 最後の事件は、まだ容疑が確定している訳ではないが、犯人とされている女子中学生は祖母を刺した後で家に火をつけ、燃えさかる家を眺めながら携帯電話で誰かと話をしていたというから驚く。そして彼女が祖母殺しを企てた理由として挙げられているのが、食事中、祖母の入れ歯がカタカタ音を立てるからだというに至っては、ただ唖然とするしかない。
 しかし、総じて事件が起きる背景には、少女らが祖母や母親から過酷なな扱いを受けていたという事情がある。例えば、祖母と母親を刺し殺した北海道の高2女子高生は、一人だけ物置のようなところに住むことを命じられ、冬場の雪掻きを含む家事の多くを一方的に押しつけられていた。
 北海道の高2女子高生の場合、一家の全権を握っていたのは母系の祖母であって、これに耐えかねて父親は離婚して家を出てしまい、三人いた娘たちのうち次女も、「こんな家にはいられない」と父について家を出ている。だから、家には祖母・母親のほかに就職している長女と高校生の三女が残り、このうち三女が奴隷のような扱いを集中的に受けていたのである。
 祖母が一家の権力を握っていたケースとしては、河上肇や三島由紀夫の家族が思い出されるが、ここでは母親が全権を握っていたケースを一瞥してみよう、アキハバラ事件の加藤智大の家族である。
 智大の両親は職場結婚をしている。母親が金融機関に就職して3年たったところへ、父親が入社しているから、父親にとって妻は三年先輩だった。妻の年齢も彼より三歳年長だったから、彼は何となく妻に気圧されていた。彼は、ただでさえ妻に頭が上がらないところに、出身高校の点でも妻に引け目を感じていた。妻は県内屈指の名門校である青森高校の出身だったのに反し、父親は非一流高校の出身だったのだ。
 母親は結婚と同時に退職して主婦業に専念することになった。こうなると、夫は、もう生まれてきた子供の躾や教育に口出しすることが出来なくなった。彼は、二人の男の子に対する妻の苛酷な育て方を黙って傍観しているしかなかった。
 智大が小学校二年生になると、母親は一緒に風呂に入って、九九を暗唱させた。智大が間違えると、頭を押さえつけて風呂の中に沈めた。
 あまりのことに、智大はよく泣いたが、それも罰の対象になるのだった。母親はスタンプカードを作り、智大が泣くたびにスタンプを一つ押し、それが10個たまると更なる厳罰に処した。智大が泣きやまないときには口にタオルを詰め込み、その上からガムテープを貼り付けることさえした。
 厳しいストレスにさらされ続けた智大は、小学校の高学年になってもオネショが直らなかった。母親は、智大がオネショをするたびに激しく叱責して、赤ん坊用の布オムツをはかせ、そのオムツを物干しに掲げて息子を「さらし者」にしている。
 
 智大は、小学生の頃から学校の成績がよかったし、スポーツも得意だった。だが、母の要求は高く、「テストは100点を取って当たり前で、95点を取ったら怒られた」と彼は公判廷で語っている。
 この事件につて調査した中島岳志は、次のように書いている。
 <また彼(智大)は、たびたび家から締め出されることがあった。近所の住民の証言でも、彼が冬の雪が積もる日に薄着のまま締め出されている様子が目撃されている。知り合いの主婦が「もう、いいんじゃない?」と母に話しかけると「あの子にも悪いところがあるから」と取り合わなかったという。この主婦は「両親があまりにも厳しすぎて」「躾と虐待の境目が分かっていない」のではないかと証言している (「秋葉原事件」中島岳志)>
 智大はこれほど母親に痛み付けられながら、母への復讐を計画していた気配はない。彼の攻撃欲求は蓄積され、母を飛び越えて外社会に振り向けられ秋葉原の惨劇となったのであった。家の中で蓄積された攻撃的エネルギーをプラスの方向に振り向けて、社会的成功の階段を登っていった少年たちも少なくない。
 だが、少女らは怒りのエネルギーを「昇華」させることなく、ストレートに祖母や母に振り向ける。けなげな<おしん>は姿を消し、現代の怒れる少女らは復讐の魔女になって、家族と向かい合うようになったのだ。
 なぜだろうか? この辺に、現代社会の謎を解く鍵の一つがあるように思うのだが。