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ほめてもらいたい日本人

2015/1/29(木) 午前 10:13
 ほめてもらいたい日本人
 先週の「週刊朝日」は、面白かった。なかでも「褒めてもらいたい日本人」という特集を読んで、愚老は、思わずにやにや笑ったのであった。
 テレビを見ていて気がつくのは、近頃、外国人を集めて日本をべた褒めする番組が増えてきたことだ。精神科医の香山リカは、「日本最高!」というテレビ番組が続出する風潮を、こう酷評している。
 <マイナス要因にまったく目を向けず、日本は世界から愛されているという根拠のない自信を持つのは、ナショナリズムとしては末期的な状況です>
 <日本人は、もともと欧米に出遅れているという強いコンプレックスがある。今はアジアの中でも、中国や韓国に抜かれているという切実な不安を抱えている。外からのお墨付きを得ることで、劣等感や不安を少しでも払拭したいのでしょう>
 社会学者の吉野耕作(上智大教授)も、こう分析する。
 <経済的にも文化面でも強かった日本にかげりが見えてきたからこそ、「俺たちにはこんなにいいところがあるんだ!」と自己確認するのだと思います>
 外国人の口を借りて、自国を褒めあげ、「自信がないから、空威張りする」のは、「本当は国ではなく自分自身を褒めてもらいたいからだ」と香山は鋭くえぐるのだ。
 個人として認められることがない人間にとって、最後に残る属性が「日本人」というものだ。これは努力しなくても持つことが出来る肩書きだから、これを最後の拠りどころにして自己を肯定しようとするのである。
 日本人が何でもいいから褒めてもらいたい心理は、香山らの指摘するとおりだろう。だが、これは戦前、戦中の日本人による自画自賛よりはましなのである。
 満州事変の翌年に小学校に入学した愚老は、至る所で日本に関する夜郎自大的な自己賛美を聞かされて大きくなった。岸田国士は、「日本人に聞かせるために、日本人が日本を賛美すること」を嫌悪していたけれども、昔は自国賛美のPRを聞くことなしに一日も過ごすことができなかったのだ。
 こういう家族を想像して見たらどうだろうか。
 一家の家長たる父親とその跡継ぎである長男が、食事のたびに我が家は世界で一番優秀な家族なんだぞと自慢するのを聞かされる。みんな頭がいいし、丈夫だし、法律を守る善人ばかりだしな。こんないい家族はどこを探しても見つからない。うちに比べたら近所の家族はどうだ、しょっちゅう内輪喧嘩ばかりしているではないか。お前たちはこの家に生まれた幸福を感謝しなければいけないぞ。一番大事なことは、親孝行と忠義だ。個人主義だの、自由主義だの、人道主義だの、社会主義だの、みんな悪魔の理論だからな。覚悟しておけよ、そんなものにかぶれたら、家から叩きだしてひぼしにしてやるからな。
 安倍首相が取り戻そうとしている「美しい国、日本」とは、上記の家族を連想させるような国家なのだ。これに比べたら、外国人の褒め言葉を並べたテレビ番組の方が、まだ我慢できるのである。
 「週刊朝日」には、「犬・猫・ペット」に関する投書欄があり、そこに「ひととき」の拡大版のようなコラムが載っていた。書き出しは、こうだ。
 <実家の母が犬を飼うと言い出したときはおどろいた。母は理路整然としていて、80歳になっても一日一冊は本を読み、言葉による愛情表現は希薄、スキンシップなどとんでもないというタイプ・・・>
 その母が柴犬を飼いだしたのだから、どうなるか、その一部始終がユーモラスな筆致で書かれていて、これも読んでいて思わず笑ってしまった。先週号のこの週刊誌は、380円の価値が十分にあったのである。