かなり前のことだが、A級戦犯を靖国神社から分祀する案が浮上し遺族の意向を聴取した際、東条家の遺族だけが反対したため分祀案は日の目を見るにいたらなかったという事実がある。この時には、参議院の議員をしていた板垣征四郎の息子が仲介に立って、遺族への説得に当たったといわれる。
ところが、最近、A級戦犯の遺族を説得したら、東条家と板垣家が反対したため、やはり分祀案はつぶれてしまったそうである。
戦争責任という点で、一番重い責任を負っているのは東条英機と板垣征四郎なのである。東条は満州国に駐屯する関東軍の参謀長で、関東軍司令官の板垣征四郎の下で中国の河北省・内蒙古への進出を企て、日中戦争を引き起こしている。
軍部が満州国を作るところまでで自制していれば、日中戦争も起こらなかったし、無論、太平洋戦争も起こらなかった。だが、東条と板垣は、満州だけでは満足できず、その周辺の中国領へじわじわと軍を進め、遂に日中戦争を始めてしまったのだ。
やがて板垣が中央に呼び戻されて陸軍大臣になると、東条も陸軍次官になり、中国戦線の拡大をはかる。東条は陸軍部内にあって主戦派の筆頭であり、板垣は彼に操られるロボットだと噂された。
東条は近衛内閣の陸軍大臣になり、さらに木戸幸一の推挙で総理大臣になって日本を太平洋戦争に引っ張り込んだ。そして「カミソリ東条」といわれるほどの回転の速い頭脳と異常なほどの勤勉さで、国民を督励して戦線を拡大し続けた。太平洋戦争が始まってからは、彼は首相・陸軍大臣・参謀総長を兼ね、戦争を継続するための独裁的な権力を手にしたのだ。
彼の罪はそれだけでない。彼が「戦陣訓」によって兵士に捕虜になることを禁じたから、アッツ島・硫黄島・サイパン島玉砕の悲劇も生まれた。彼は、多くの兵士と国民に無意味な死を強制した大罪人なのである。
その東条英機と板垣征四郎の遺族が、分祀案に反対して靖国神社に居座るというのだから、その無知と無反省には呆れてしまう。これでは被害者の霊屋に加害者が土足で押しかけ入居するようなものではないか。