最近になって、改めて自分の国を「ヘンな国だな」と思うことが多くなった。まず、オヤと思ったのは、早稲田実業の投手が急に国民的なアイドルになって、どのテレビも「ハンカチ王子」一色で塗りつぶされたことだ。
私も高校野球の決勝を見ていたけれども、早稲田実業の斉藤投手からは特別な印象を受けなかった。あの小柄な体で連投に継ぐ連投をしてもバテないスタミナには驚かされたが、それ以上の「感銘」は受けなかったのだ。
「ハンカチ王子」狂想曲が終わったと思ったら、今度は安倍晋三狂想曲だった。総裁選挙を控え、自民党議員が恥も外聞もなく安倍晋三支持に走ったのと符節をあわせるように、マスコミもこのタカ派政治家に対する提灯記事を一斉に掲載し始めた。そして、それが終わったと思ったら、今度は秋篠宮妃の出産に関する報道の氾濫である。
特定の人物をアイドル化して、マスコミが一斉にもてはやすのは日本ばかりではないという意見もある。だが、日本の場合は世界各国と少し事情が違うのではなかろうか。ハンカチ王子・安倍晋三・秋篠宮妃に関するマスコミの扱い方を見ると、どの新聞、どのテレビ局も、同じ視点に立って同じような取り上げ方をしていて、どれがどれだか全く見分けが付かないのだ。マスコミ各社はそれぞれ読者・視聴者の好尚に合わせて、記事や番組を作るのだが、各社の想定する顧客の好みが酷似しているのである。だから、報道内容もまるで相談したように同じものになってしまう。
言論統制を敷いている国をのぞけば、世界のマスコミは国民的アイドルに対しても、容赦ない批判を浴びせている。7割の国民が特定のアイドルを賛美していても、3割の国民が否定的な意見を持っていれば、マスコミの意見は大体その比率で振り分けられる。ところが、日本では国民の6割に支持されれば、マスコミの全部がその人物の支持に回り、批判的な報道は姿を消してしまうのである。
小泉首相は、こういうマスコミの寵児になった政治家だった。
米国大統領のブッシュと日本国首相小泉は、政策に無知な点でよく似ているといわれる。アメリカの著名な作家ノーマン・メイラーは、歴代大統領のうちでブッシュが最も無知な人物だと批評しているし、小泉首相について盟友の山崎拓は、彼が首相になる以前から、「いいか、君たち、びっくりするぞ。30年も国会議員をやっているいるのに、彼は政策のことをほとんど知らん。驚くべき無知ですよ」と新聞記者に語っている。
ブッシュがイラク政策で失敗して評価を落とし、支持率を急落させてから久しい。イギリスのブレア首相も、ブッシュに同調したことで支持率を落とし、いまや政権は死に体も同様になっている。その中にあって小泉首相だけが、ブッシュのイラク政策に同調しながら、その支持率は50%を維持している。
小泉支持が衰えないのは、日本のマスコミがその国民的人気への配慮から、揃って彼への批判を避けているからなのだ。マスコミは小泉人気を支えているだけではない。マスコミの犯してきた最大の罪は、半世紀にわたる自民党支配を許してきたことなのだ。
世界各国が日本を「奇妙な国」だと感じる最大の理由は、自民党が50年間もの長い期間、ごく僅かの時期をのぞいてずっと政権を維持していることなのである。世界の先進国で、こんな不思議な事例はひとつもない。
しかし、これをマスコミだけの責任に帰するのは間違っているだろう。日本のマスコミがアイドル賛美の画一的な報道を流しつづけるのも、最大与党に遠慮して長期政権を許してきたのも、日本国民が特有の社会心理的な性格を持っている為ではなかろうか。日本が「ヘンな国」になったのは、日本人の心性に由来し、そして日本人の心性がこうなったのには文化人類学的な背景があるのではないか。
(つづく)