三浦和義が万引き事件を起こして、また、ワイドショウの話題になっている。私は以前から三浦和義よりも、その妻の良枝の方に関心を持っていたから、彼女が夫の万引き事件を聞いてどんな反応を示したのか知りたいと思っていた。すると、彼女はこの話を耳にして、ただ笑っていたというのだ。納得できる話だった。
三浦和義のことで記憶に残っていることが二つばかりある。
一つは、彼がスーパーか何かに入って買い物をするとき、彼の後を追い回していたカメラマンに向って財布の中身をちらっと見せたことだった。財布の中には、一万円札がぎっしり詰まっていた。あの厚さから見て、たぶん、百万円はあったのではなかろうか。
テレビでその場面を目にして、相変わらずだなと思った。
事件の一部始終を見ていて感じたことは、「キジも鳴かずば撃たれまい」という言葉だった。彼は事件の後で、自分を悲劇の主人公と印象づけるためにオーバーに演技しすぎた。ロス市当局に厳重に抗議して、事件の犠牲になった妻を米軍機で日本に運ばせたかと思うと、妻を乗せたヘリコプターが着陸する現場にわざわざ出かけて、発煙筒を振ってパイロットに合図したりした。
万事こういう調子だったから、彼は愛妻家としてマスコミに大きく取り上げられ、美談の主役になったのである。彼があんなスタンドプレイをしなければ、事件はマスコミを一時にぎわせただけで終わり、妻への保険金1億5500万円も無事支払われて一件落着したに違いないのだ。
彼は若い頃に自分で放火した後で,火事を消防署に通報し、感心な少年として新聞種になっている。だが、その後で彼が犯人であることがバレて、何年かの刑を受けた。三浦は自己顕示の欲求が人並みはずれて強いから、いいところを皆に見せつけようとして、つい自分から墓穴を掘ってしまうのである。金があれば、それを財布に詰め込んで、他人にひけらかしたくなるのだ。
もうひとつ記憶に残っているのは、マスコミのクルマに追跡されながら、彼が自分の自動車を手放し運転していたことだった。しかもそれは、市街地でのことなのである。伴走しながら車内の三浦を撮影していたカメラマンが、走行中にハンドルから両手を離して平然としている彼を見て、思わず、「危ない、危ない」と叫んだほどだった。三浦には危険を承知で、ぎりぎりの瀬戸際まで踏み込んで粋がるヘキがあるのだ。万引きで捕まった前歴があるにもかかわらず、彼がまた同じ事を繰り返したのも、こうした彼の性癖から来ている。
この三浦和義と結婚した良枝の過去も、尋常なものではなかった。
彼女は「不良少女」だったといわれるけれども、自分では一度も犯罪に手を染めたことはない。その点、彼女は自分を抑制する能力をそなえた利口な少女だったのである。しかし、彼女の父親は刑務所暮らしをした前科者だったし、最初に結婚した男も刑務所体験者であり、再婚した三浦も容疑者として収監されている。彼女と関わりのある男たちはすべて犯罪に関係しているのに、彼女ひとりだけ身綺麗なのだ。
これは、どうしたことだろうか。
彼女はその生育環境から、犯罪というものをサラリーマンがする仕事と同じ職業行動だと思うようになっていたのではないだろうか。犯罪は男が外でするまっとうな業務であり、女は家にいて男が稼いでくるのを待っていればよい、彼女はそんな風に考えているのではないか。彼女の頭の中には、罪悪感などはないのである。
マスコミの報道が過熱し、追いつめられた三浦が弱気になって、「もうダメだ。自首しようか」といったとき、良枝は、「何言ってるのよ。しっかりなさい」と叱りとばしたという話が伝わっている。彼女は犯罪を生きて行くのに必要な経費を稼ぎ出す日常的な業務だと思っていたから、自首するなどと言い出した夫を責任を放棄する逃亡兵のように思ったのだ。
こういう女だから、彼女は夫が万引きをして捕まったと聞いても笑っていることが出来るのである。夫が長期間刑務所にほうりこまれ、その稼ぎが当てに出来なくなれば離婚しなければならない。事実、三浦の刑務所暮らしが長くなったとき、彼女は彼と離婚している。三浦が出所したから彼女は、再び、彼とよりを戻したのだ。
良枝には、万引き程度の罪はサラリーマンが会社で小さなミスをして課長に注意されたくらいにしか思えない。脛に傷を持つ男たちを数多く見てきた良枝にとって、男というものは空威張りをしたり、馬鹿なことをして粋がったりする子供のように単純な存在なのだ。だから三浦が性懲りもなく万引きをやり、その後で噴飯物の弁解をするのを聞いても、彼女は(また、やってる)と怒るより先に笑い出したのである。
三浦和義よりも、良枝の方が遙かに格上のように見える。三浦は、良枝という鵜匠に操られる鵜のように見えてくるのである。