甘口辛口

週刊誌に見る人間喜劇(隠居の放談)(その1)

2007/9/11(火) 午後 4:07

(大学卒業時の高砂親方:「週刊文春」より)

<週刊誌に見る人間喜劇>

熊─ご隠居さん、馬鹿に機嫌がいいじゃないか。何か、面白いことがあったんかい?

隠居─いや、週刊誌を読んでいたところなんだ。週刊誌というのは、確かに笑えるねえ。ユーモア雑誌を読んでいるようだよ。

熊─どれどれ、「週刊文春」の9月13日号か。おいらもこれを読んだが、笑えるような記事は何もなかったぜ。

隠居─それが、あるんだな。例えば、表紙をめくると、高砂親方を取り上げた「組写真」がある。その一枚に、親方が婚約した時の写真があって、「指輪は3,75カラット1500万円」というキャプションがついている。これを読んでいると、笑えてくるんだな。

熊─別におかしなことはないじゃないか。

隠居─昔を知っている者には、笑えてくるんだ。彼は婚約したとき、記者達に婚約指輪を贈ったかと質問された。すると、親方は、あっけらかんとした調子で、「うん、指輪を買ったら、すっかり金がなくなっちゃった」と答えていた。彼は、女性のハートを射止めるために、有り金全部をはたいて指輪を購入したんだな。

熊─それがどうしたというんだい? 好きな女のためにすべて投げ出したんだ、いい話じゃないか。

隠居─それが高砂親方の行動様式だということなんだよ。相撲協会の理事会が朝青龍の帰国を認めたときに、彼は気負い込んで、「朝青龍のことは自分が全責任を負う」と宣言した。そして、一緒にモンゴルに出かけた。あれだけのことを言い切った以上、親方は朝青龍と寝食を共にして年明けまでモンゴルに留まると思ったら、何のことはない忽ち日本に舞戻ってきて、向こうで見た虹の話なんかをしてたな。

熊─つまり、その場その場で一生懸命になって全力を振うが、長続きしないということかい?

隠居─うん、彼は日替わりで心機一転を繰り返しているんだよ。後先を考えずに何かをやる。次の日も、また、何も考えずに別のことをやる。しかしな、考えてみれば、こういう調子で、毎日を過ごすのが相撲取りの人生じゃないか。彼らは、一日一番、毎日のように常に新たな気持ちで土俵に上っているんだ。

熊─では、舛添要一のことは、どうなんだい。彼のスキャンダルが、トップ記事になっているんだぜ。<看板大臣には「四人の妻」と「三人の隠し子」。元妻片山さつきにサバイバルナイフを突きつけた男>とある。

隠居─舛添大臣のことでも笑ったよ。彼が片山さつきと結婚して「こんな知的水準の高いカップルは空前絶後だ」といわれたことは知っていたが、四人の妻・三人の隠し子という話は全然知らなかったからね。トップ記事を読んで、やっぱり正体をあらわしたなと思って笑ったんだ。

熊─正体を見せた?

隠居─ああ、彼のあの突き刺すような目つきと、母親の介護に専念したという美談がどうもうまく繋がらなかったんだ。ベストセラーになった『母に襁褓をあてるとき――介護闘いの日々』(中央公論社)という本の題も、衝撃性を狙ったうまい題名であることは認めるが、何だかイヤな後味が残る。記事の中で、舛添と対立している長姉は、彼が親孝行だという説を否定した上で、「あの子は頭がいいから何をやってくるかわからんし、恐いですよ」と語っているが、「恐いですよ」という言葉には、実感があるね。

熊─ご隠居も、この頃、人相見みたいになってきたな。うちのカミさんは、「舛添要一はシャープないい顔をしている」といっていたぜ。

隠居─シャープかもしれないが、あれは反省とか懐疑とは無縁の顔だよ。進むことだけを知って、退くことを知らないロボット人間の顔だ。人間的な深さとか苦悩とか、そういうものを完全に欠如した非人間的な顔でね、エリートといわれる者の中には、ああした顔をしたのが多いんだ。何でも一番を主義にして、人を押しのけて突き進んできたエリートは、自然にああいうふうな顔になる。

熊─姫井ゆみ子の寝顔写真という記事もあった。

隠居─これは、あまり笑えなかったな。姫井参議院議員と不倫をしていたという男は、週刊誌の要請に応じて、四五〇枚以上の秘密写真を提供したという。この男が、二人だけの秘密写真を公開したのは、議員への恨みを晴らし、あわせて週刊誌から支払われる謝礼を目的にしていることは誰の目にも明らかだが、彼はしらじらしく、「彼女が国会議員でいると、国益に反すると判断したからだ」と弁解している。あまり見え透いたウソを聞かされると、興ざめしてくるね。

熊─ほかに笑えるような記事があったかな。

隠居─川柳欄に、「禁煙で 長生きすれば 国こまる」というのがあったよ。

熊─「紀子さま流帝王学」という皇室記事は、どうだね。

隠居─秋篠宮妃は、結婚する前から宮内庁に頼んでビデオを借り出し、お手振りなどの練習をしていたという。その彼女が、生後5ヶ月の悠仁坊やにお手振りとお辞儀の訓練をしていると聞いて呆れたね。この人は、皇太子妃への対抗意識に燃えているらしいな。雅子妃が娘を連れて天皇・皇后を訪ねることが少ないので「両陛下は寂しがっておられる」というニュースの流れているのを知ってか知らずか、坊やを連れて「八月には三度も両陛下のもとに」参上しているそうだ。これも何となく興ざめする話だよ。

熊─しかし週刊誌の書くことなんか、余りあてにならないぜ。

隠居─それは承知しているさ。でも、新聞に載っている週刊誌の広告を見るだけでも、「おお、皆さん、やってるな」という気がしてくるじゃないか。昔、腹を立てて見ていたような社会現象でも、年を取ると人間喜劇の一場面として笑って眺めることが出来るようになる。週刊誌ばかりじゃない、近頃は新聞やテレビを見ていると、松竹新喜劇を見物しているような気分がしてくるんだ。