<星野仙一へのバッシング>
金メダルを取ってくるとか、日本野球のレベルの高さを見せてくるとか豪語してオリンピックに臨んだ「星野ジャパン」は、思うような成績を上げられずに帰国した。すると、それを待っていたように星野仙一へのバッシングが始まった。
楽天の野村監督は、星野が山本浩二らの仲間をコーチに選んだときから、日本チームの敗北を予想していたと語り、投手出身の監督は一般に視野が狭いと付け加えている。某週刊誌は、星野らを「三バカ首脳」と呼び、「週刊朝日」は五輪で株を上げた人・下げた人の特集を行って、下げた人の筆頭に星野仙一をあげている。
だが、メダルを取れなかった責任が首脳部にあるのか、あるいは緊張のあまりガチガチになった選手にあるのか、ハッキリしていない。それで真相を確かめるべく、「週刊朝日」の関連記事を読んでみた。この週刊誌の見出しは、相当過激で、「ストップ安──星野はもう辞めろ!」となっている。
同誌によると、「週刊朝日」はすでに8月1日号で、このメンバーで勝てるのかと疑問を提出していたそうである。その理由として、同誌は次の理由をあげていたという。
(1)代表メンバーに負傷者が多いこと
(2)投手陣に先発タイプが多すぎること
(3)メンバーに星野の門下生である中日・阪神の選手が多いこと
(4)星野監督は短期決戦に弱く、日本シリーズに勝っていないこと
「週刊朝日」は、ほかにも専門家のあげる敗因を引用している。中日時代、星野監督の下で投手コーチをつとめた山田久志は、「中継ぎ専門の投手が、1〜2名は必要だった」と語り、中日OBの谷沢健一は、「星野さんは、自分のいうことを聞く選手を選んでいる。彼の意のままに選手が動いてくれるという傲慢な考えがある」と指摘している。
小学生にもわかる星野采配の過ちは、岩瀬投手を二度抑えに起用してその都度失敗したこと、エラーを続ける外野手を交代させず、結局彼に致命的な失策をさせてしまったことの二つだろう。これについて星野は、あれが自分の野球の方程式だったから仕方がないという意味の弁明をしている。
彼は韓国メディアが岩瀬の起用について質問したときにも、「それが私のやり方ですから」と答えている。星野監督が自分のスタイル、自分の方程式を大事にするのは結構なことである。だが、それらが通用しないと分かってからも、なお、星野方式に固執したとしたら、それは信念ではなく単なるわがままに過ぎない。
大体、コーチにその道の専門家ではなく、自分の友人や子飼いの選手を選ぶのは自信のない証拠なのだ。その事例は星野監督だけにとどまらない。「長嶋ジャパン」のコーチは巨人軍時代の長嶋の配下達だった。もう少し、古い話では、巨人軍監督だった水原茂は、友人をコーチに選び、以後、東映、中日に移籍するときにもこの仲間を引き連れて動いている。
プロ野球の監督として本当に実力のあったのは、水原に巨人軍監督の地位を奪われて九州の弱小チーム西鉄ライオンズの監督になった三原脩だった。彼はコーチに頼ることなく、作戦から選手管理まで、いっさいを独力で行った。西武ライオンズの広岡達朗も実力派の監督だったが、彼もお仲間や配下を作らず、自分ひとりの判断でチームを動かしていた。
政界を見ても、政治家には二つのタイプがある。
安倍前首相は、仲間に囲まれていないと安心できないタイプの政治家だった。それで閣僚を任命するに当たって忠実な仲間を選び、「お友達内閣」にしたため大臣のスキャンダルが相継ぎ、結局失脚してしまった。これに反し、小泉純一郎は仲間や同志を持たない一匹狼の気楽さから、一本釣りで閣僚を選び、その閣僚が問題を起こせば即刻別の人間に入れ替えた。
自分のまわりに取り巻きや仲間からなる小グループを作るのは、外社会の厳しい批判に耐えられない弱さがあるからなのだ。いわば、グループは外圧から身を守るシェルターであり、この中で仲間は相互の欠点や失策は許し合って居心地のよい小世界を形成しているのである。そして、その結果は外の世界が見えなくなるという悲劇に帰着する。
シェルターの中で身を守り、外の世界に盲目になれば、世間での自分の評判が気になる。安倍晋三は少しでも自分に不利なニュースが流れると、マスコミに抗議して名誉毀損の訴訟を起こすと脅しをかけていたという。「週刊朝日」には、星野仙一に関する次のような記事が載っている。
大手スポーツ紙のある記
者はため息交じりで、こう
話す。
「週刊誌に星野批判が
出ると、『誰が情報を漏
らしているんや』と番
記者相手に犯人捜しを
始めるんです」
とはいえ、大相撲の世界と同じように、人材不足という点ではプロ野球の世界も同様である。星野仙一には、いましばらく球界を背負って活躍してもらわなければならないだろう。そのためには、党派性を捨て、仲良しグループから踏み出て、球界を無私の目で眺める必要がある。今回の失敗は、星野仙一にとっていい薬になることを希望する。