甘口辛口

小さな独裁者(1)

2011/11/15(火) 午後 2:54
小さな独裁者

このところ、日本国内で独裁的人物への逆風が吹いている。大王製紙社長やオリンパス前社長が法令違反で窮地に立っているし、他方では、読売新聞のナベツネ氏が巨人球団のジェネラル・マネージャーから「涙の抗議」を受けている。

旧制中学時代の同級生に中日ドラゴンズの熱烈なファンがいて、口を開けば渡辺恒雄をこき下ろしていた。「ナベツネのヤローが・・・・」というのが彼の口癖で、彼に言わせるとナベツネ氏は球界の盟主という立場を利用して、読売ジャイアンツに有利なことばかりを画策して来たというのだ。

ナベツネ氏が、球界にあって利己的に行動する理由はよくわかるのだ。読売新聞が発行部数1000万部という日本一の大新聞になったのは、巨人軍とタッグを組んだからで、ジャイアンツが弱くなれば、これに連動して読売新聞の発行部数が減少するおそれがあるのだ。

読売新聞が今日の大を迎えるに至ったのは、ベビーブーム時代の子供たちが成長して一家を構えるようになったとき、競って読売新聞を購読したからだ。彼らは、「巨人、大鵬、卵焼き」の世代だから、大人になって金を自由にすることが出来る年齢になれば、ジャイアンツに関する記事を満載した読売新聞を読み、ジャイアンツの試合を中継する読売テレビを視聴することになる。

私は、この世代の後輩が自嘲的に、「ジャイアンツとは、死ぬまで縁が切れそうもないですよ。何があっても、つい、ジャイアンツの肩を持ってしまう」と述懐するのを聞いたことがある。ナベツネ氏の行動が横暴を極めているとしたら、こうしたジャイアンツ・ファンがバックに控えていることを知っているからだ。

ナベツネ氏のワンマン的行動が、プロ野球の世界のことだけだったら、取り立てて問題にする気にはならない。だが、彼が読売新聞を「ワタナベ新聞」にして、自民党のスポンサーを気取って党派的な主張を繰り返すことに許しがたいものを感じるのだ。

そもそも彼は、私とほぼ同年齢であって、戦争中の愚劣な皇国史観に吐き気を感じてきた一人だった。だから、戦後の彼は、強硬な天皇制否定論を振りかざして学生運動にとびこみ、活発に活動していたのである。

だが、読売新聞に入社して、大野伴睦の番記者になると、大野伴睦のために情報収集に当たり、その参謀格になった。やがて、彼は中曽根康弘と盟友関係になり、自民党の内部に深く食い込みはじめる。戦前だったら、逮捕を逃れるために左翼から右翼に転じることはやむを得ないことだったかもしれない。しかし戦後になって、左翼から右翼に転じるのは、変節以外のなにものでもない。右翼に転じてから、左翼を攻撃するのは、別れた女房に悪口雑言を浴びせるようなもので、はなはだ見苦しいと言わねばならない。

独裁者になったナベツネ氏は、読売新聞をワタナベ新聞に変え、さらに自民党支援新聞に変えてしまった。そしてナベツネ氏は辣腕をふるって、身辺から敵を一掃して、イエスマンばかりを周りに集めることになった。こうなったら、どんな明敏な人間でも目が見えなくなり、やがては身内から反逆者を出すことになる。

ナベツネ氏に対して子飼いの配下だった清武球団代表が噛みつくという今回の珍事を、世の人々はどう見ているのだろうか。

一般庶民の反応と、マスコミに顔を出している「知名人」の反応では、際立った差があるのだ。一般庶民は、ジャイアンツ・ファンを除いて、反逆した球団代表を支持し、球団会長であるナベツネ氏を否定している。TV局が街頭で50人を調査したら、反逆者側を支持した者が41人あったのに対し、ナベツネ氏を支持した者は僅かに2名にすぎなかった。別のTV局が100人を調査した結果は、反逆者支持者が81人に対し、ナベツネ氏支持が12名となっていた。ナベツネ氏を支持する市民は、極めて少ないのである。

これに対して、「知名人」はほとんど全部と言っていいほどナベツネ氏を支持し、清武球団代表を非難している。その理由は明らかである。下手に反逆者側に肩入れしたら、読売テレビ、読売新聞から使ってもらえなくなるからなのだ。

(つづく)