甘口辛口

女子高生の手記(その2)

2007/5/31(木) 午後 7:33
「駅で」

夏の暑い日だった。私は遊びに来た親戚が帰るので、見送りのために駅のプラットフォームに出ていた。やがて、電車が駅に滑り込んできた。そのとき、到着した電車のなかから、乗客に呼びかける車内アナウンスが聞こえてきた。

「**さん、駅にお父さんがいらっしゃるので、窓を開けて顔を出してください」

それを聞いて、私は何て大袈裟な親だろうと思った。そんな横着なことをしないで、自分で車内をのぞき込んで子どもを探せばいいではないか。瞬間的にそう考えたとき、電車の窓が開き、そこから一人の娘さんが顔を出した。

すると、駅員に抱きかかえられるようにして、その娘さんの方に急ぐ初老の盲人の姿が眼に映ってきた。この人が、「**さんのお父さん」なのだ。彼は娘さんの手に茶封筒を握らせ、何か一生懸命に話しかけている。娘さんはうなずきながら泣いていた。茶封筒の中には、きっとお金が入っているのだろう。

それを見ているうちに私も、涙を流していた。何か、得体の知れないものが、私の心の中一杯にひろがったのだ。



     「電車の中で」    

下校する電車の中のことだった。
発車して二駅を過ぎた頃に、反対側のボックスに座っている兄弟らしい二人の男の子に注意を引かれた。兄の方は小学校6年生ぐらい、弟の方は3年生くらいだったが、弟の方が一刻もじっとしていないのだ。窓を一杯に開けて、体を外に乗り出そうとする。すると、兄は弟の腕をぐっと引っ張って、手の甲をぴしゃりと打つ。そして、いけないというように首を振ってみせる。

又、弟は土足で座席に立とうとする。すると、兄は弟の足を引っ張り、その子の頭を軽く叩く。弟も、負けてはいない。すぐさま、叩き返す。兄は、「やったな!」という表情で弟をくすぐり始める。

暫く、眺めているうちに、私は弟が、アーアーとか、アウーというだけで、しゃべれないことに気づいた。やがて、兄はひょうきんな顔をして見せたり、テレビで流行っている「ヘンシーン」のポーズをして、弟を飽きさせまいとし始めた。

二人には、可哀想だと思わせるところが少しもなかった。
兄には、やさしさと思いやりがあり、そしてきびしさもあった。まるで、おとなのようだった。二人を見ていたら、生きているということの喜びを感じさせられた。