甘口辛口

隠居の放談

2007/8/1(水) 午後 6:35
登場人物  ハナ子・隠居
                    

隠居─いらっしゃい。えーと、あなたはどなたでしたっけ? 年を取ると、忘れっぽくなっちゃって・・・・

ハナ子─何時も、うちの熊がお世話になっています。私は、熊の家内のハナ子ですよ。

隠居─ほう、あんたがねえ。長屋じゃ評判のインテリおばさんだ。

ハナ子─いやですよう、からかっちゃ。私は短大を出ているだけですよ。

隠居─しかし、熊さんは確か中卒で・・・・

ハナ子─ええ、うちのひとは、中学を出て直ぐ就職して、今じゃタクシーの運転手をしています。

隠居─二人が一緒になるについちゃ、何かロマンスがありそうだね。それは、いずれゆっくり聞かせて貰うとして、今日は何の用事で来たのかな。

ハナ子─ご隠居さんのブログのことですよ。こないだ、私が熊と選挙の件で喧嘩したことをご隠居はブログに書いたでしょう? あのことで、言いたいことがあるのよ。

隠居─ゴメン、ゴメン。あんたが熊さんの顔をひっかいたことを書いたのは悪かった。しかし、おかみさんがパソコンをやってるとは、知らなかったな。

ハナ子─そういうところが、ご隠居の悪い所なんですよ。人間すべて平等だなんて恰好のいいことをいいながら、腹の中じゃ教養のあるなしで人を区別している。どうせ、熊の女房だからパソコンなんか出来ないに決まっていると思っていたんでしょ。

隠居─いや、いや

ハナ子─(ツケツケと)私はご隠居さんのホームページやブログを読ませて貰いましたけどね、書いてあることは矛盾だらけじゃないですか。

隠居─こりゃ、参ったな。例えば、どこが矛盾しているね?

ハナ子─例えば、ご隠居さんは「国家主義」の政治家を毛嫌いしいるわね。どうしてなのよ。ご隠居さんは、口を開けば思想の自由が大事だと言ってるでしょ。

隠居─国政をめざす政治家たるものは、最低条件として人類愛の精神を持っていなければならないと、私は考えているんだがね。手っ取り早く国民の人気を得ようとしたら、国益を振りかざして他国を非難するのが一番なんだよ。だがね、自国のことばかり考えている政治家が集まったら、国際紛争は激化するばかりだ。挙げ句の果ては世界戦争になりかねない。だから、選挙で政治家を選ぶに当たっては、まず、国家主義者を除外してかかる必要があるのさ。

ハナ子─それから、私が気になるのはご隠居さんの人間評価がどんどん変わっていくことなの。一番いい例が、小泉前首相への評価よ。小泉前首相が登場した頃、ご隠居さんはあの人を高く買っていたんじゃないかしら。

隠居─そうだね。私は、最初、彼の生き方に惹かれていたんだ。

ハナ子─ご隠居さんは、ご自分のホームページに、「小泉首相は、過去に負けると分かっている総裁選挙に二度も出ている。こうした行動は、計算高いエリート系の政治家には到底出来ない。・・・・彼は人気が高くなろうが、低くなろうが、あまり意に介しないタイプなのだ。だからこそ自民党を牛耳ってきた橋本派に戦いを挑むことが出来たのだ」と書き、「どうやら彼は一本杉のような単独型人間らしい。『大物』政治家のまわりには何人かの側近がいるのが普通なのに、彼はそうしたものを持たず、国会でも、一人で図書室にこもって本を読んでいることが多いという。彼が、一人でいても平気なのは、多方面の趣味を持ち、自分を充足させる手段には事欠かないためらしい」と賞賛の言葉を連ねているわよ。

隠居─・・・・・

ハナ子─それなのに、暫くすると、小泉前首相が靖国神社参拝に固執するのは、遺族会の票目当てのためだとか、イラクで斬首刑になった日本人青年を見捨てたのは冷酷な本性をバクロしたものだとか言って、非難するようになったわ。どうしてなの? 人を見る目がなかったのね。

隠居─手厳しいね。

ハナ子─まだ、いくらでもあるわよ。田中康夫前長野県知事をはじめは評価していたくせに、やがてけなすようになり、そして今は又あの人を持ち上げるようなことを書いている。言うことが猫の目のようにクルクル変わるんだから。

隠居─自分からいうのもなんだけれどもね、ほかにもまだあるんだよ。私は昔、プロ野球のファンでね、西武にいた頃の清原選手が好きだった。彼が人気絶頂だった巨人軍に闘志を燃やしていたからだよ。ところが、その彼が巨人軍に移ったので、すっかり彼への熱が冷めたよ。大相撲の貴乃花の場合も同じでね、はじめは彼が好きだったが、遺産相続問題での彼の行動を見て、失望しちまった。

ハナ子─一貫性がないんだわ。それを自分で認めているんじゃ、お話にならないわね。

隠居─身近な人間関係でも、そうなんだ。尊敬している人間がいても、相手の裏が見えてくると、とたんにイヤになっちまう。そんなあれやこれやを思い出していると、オレは何という移り気な人間だろうと、自己嫌悪に襲われるよ。しかし、ある時、ハッと気がついたんだ。ひそかに悟るところがあったんだよ。

ハナ子─何を気がついたのさ。

隠居─平準化作用ということでね。

ハナ子─何よ、それ。

隠居─私に対するアンタの口調が、段々乱暴になってくるのも平準化作用なんだよ。人間というものは、みんな同じように作られているんだ。どんな犬を連れてきても、犬は犬であって、猫とは違う。人間もそれと同じで、誰を連れてきても、人は人であって、人以上でもないし人以下でもない。にもかかわらず、相手を人間的な枠を超えて美化したりすると、必ずあとで平準化作用が働いて幻滅に襲われる。

ハナ子─それはお釈迦様やキリストでも同じなの?

隠居─そうさ。釈迦もイエスも孔子も、みんなわれわれと同じ人間的弱点を持った凡愚の人なんだ。ひざまずいて拝むような特別な存在じゃない。

ハナ子─では、聖書やお経に書いてあることは、価値がないのね。

隠居─それは違うな。釈迦やイエスは、所詮人の子だが、言っていることは又別なんだ。ニュートンやアインシュタインは、ただの人に過ぎない。でも、彼らの発見したものは永遠の真理なのさ。芸術作品も同じでね。作者は薄汚れていても、その作品の美しさは作者の実像を超えて独自の世界を形成している。釈迦の言葉やイエスの説教も、やはり永遠の輝きを放っているんだよ。

ハナ子─何だか、ご隠居さんに言いくるめられたような気がするけれど、うちの人が帰ってくる頃だから帰るわ。でも、私の言いたいことは、まだたくさんあるんだからね。

隠居─ああ、何時でも拝聴するよ。