甘口辛口

劣化する議員たち

2010/3/1(月) 午後 2:43

劣化する議員たち


鳩山首相が最初に施政演説を行ったときの衆議院のヤジと怒号と来たら、言語道断だった。学級崩壊した小学校の教室だって、あれほどひどくはないのではないか。あんな騒ぎを起こした後で、問題の議員たちはよくも平然と街を歩けたものだ。あれは国会議員の劣化、ここに極まれりといった光景だった。

議員の劣化という点では、自民党も民主党も変わりはない。

先の選挙で民主党が圧勝したとき、村山富市元首相がマスコミに語った言葉が記憶に残っている。記者が、「これで政治が変わるのではないか」というニュアンスで質問したのに対して、彼は「民主党も、(自民党と)同じようなものだよ」と答えたのである。

確かに、民主党も自民党と同じようなものである。

民主党議員の相当部分は、本来、自民党から立候補したかったが、選挙区には自民の世襲議員が頑張っているため、党の公認を得ることが出来ず、それで、次善の策として民主党から立候補したのだ。だから、民主党はマスコミから「第二自民党」と揶揄されたり、村山富市から「どっちが政権を取っても同じ」と一刀両断されてしまうのである。

彼らは民主党の議員になっても、選挙区を固めるやり方は自民党議員と同じで、後援会を網の目のように張り巡らして、これを集票母体にしている。ところが、後援会に集う地域のボスには、保守右派が多いから、議員はどうしても彼らの政治的立場を尊重せざるを得なくなる。それはまあいいとしても、後援会を維持するために金を注入し続けなければならないのが困るのである。議員らが多額の政治資金を必要とする理由は、このためであり、ほとんどすべての議員がこの面で弱みを抱えている。民主党の小沢一郎幹事長は、水谷建設から政治資金を不正に得ていたといわれるけれども、水谷建設が最も多く金を配っていたのは、自民党議員に対してだといわれている。

これでは、二大政党対立時代になっても、自民党一党支配時代と変わりがないではないかという気がしてくる。だが、互いに似たような政党ではあっても、二つの政党が対立するようになったことの意味は大きいのである。

朝日ニュースターの政治番組を見ていたら、アメリカで大学教授をしている日本人政治学者がこんなことを言っていた。

「欧米の識者は、自民党の一党支配を眺めて、日本はまだ民主主義国家になっていないと言っていましたよ」

確かに、ついこの間まで日本は疑似民主主義国家に過ぎなかった。経団連、農協、日本医師会などの巨大組織がすべて自民党を支持し、自民党はこういう既成利益集団の代弁者になっていたからだ。これら巨大組織間の利害を調整するには、ある程度の知能を必要とするけれども、世襲議員が多数を占める自民党には、それだけの頭を持った議員がいない。そこで、自民党は調整作業を官僚に丸投げしてきたのだった。日本の官僚は、フランスの官僚と並んで、世界で最も優秀だとされている。とにかく彼らは、頭だけはいいのだ。官僚は自民党の委託を受け、既成勢力間の利害を調整しながら、抜かりなく自分の所属する省庁の権限を守り、併せて自分たちの退職後の身の振り方まで考えていたのである。

一党支配時代の自民党は、巨大な既成組織の便宜を優先的にはかり、その他の国民を無視していた。政権を批判しなければならないマスコミも、権力に迎合するばかりだった。

だが、自民党に対抗する政党が出現すれば、自民党の下に集まっていた既成勢力も分裂する。党の手足になって政策を立案していた官僚も、動揺して党の言うことを聞かなくなる。そして政権を担当していた頃に党が行った不正も暴かれ始めるのだ。こうして徐々にではあるが、理想的な政治体制に向かって社会全体が動き始めるのである。

理想的な政治体制のもとでは、選挙制度は廃止される。議員に相当する特別公務員は、現在の裁判員制度下の裁判員のように国民の中から無作為に選び出されるのである。隣組の役員は各家庭の持ち回りで決められるが、議員などもこのやり方で、順番制によって普通の市民から選ばれるのだ。

以前に紹介したことがあるけれども、ノルウェーの国会議員は年収が一般サラリーマンと大差がなく、格別な特権も与えられていない。国会議員だからといって、隣人から一目置かれることもない。だから、候補者は選挙に金をかけることもなく、ボランティア気分で立候補する。福祉制度が整備され、社会システムが合理化されれば、誰にでも国会議員が務まるほど、仕事は平易化するのだ。

ノルウェーの体制は、選挙制度廃止の一歩手前にあると言ってもいいのではないか。今の日本は、政党助成金その他を加えると、国会議員一人に毎年一億円を支払っていることになるという。ぞっとする話だ。

国会議員に良識があったら、小選挙区制度を中選挙区制に改め、思い切って議員数を削減すべきだ。そして、将来の議員輪番制を目指して、制度を整えて行くべきなのだ。