甘口辛口

宇宙体験(1)

2006/9/6(水) 午前 10:46

立花隆は、宇宙から帰還した宇宙飛行士が、極めて奇妙な人生行路をたどっていることに着目して、一冊の本を書いた。「宇宙からの帰還」と題するこの本は、著者自らがアメリカに渡り、宇宙飛行士に直接インタビューして得た材料をまとめたもので、宇宙体験が人間の精神にいかに大きな変化をもたらすかを子細にレポートしている。

宇宙飛行士の中でも、月面に降下して月から地球を眺めた飛行士達の変化は極めて大きく、帰還後に牧師になったり、超能力の研究者になったりするものが続出している。月面に立った彼等は、無限に拡がる漆黒の宇宙と、そのなかに浮かぶ美しい地球を眺め、これまで閉ざされていた意識の扉が大きく開かれたような気分に襲われたのだ。

宇宙体験によって変化した宇宙飛行士の精神と、「不思議な体験」によって裏自己の世界を知った人間の精神には、共通する点が多い。宇宙飛行士も「不思議な体験」をした者も、共に、視覚的限界を超えて拡がる広大無辺の世界の前に立たされ、人生観が変わったことを自覚する。そして彼等の多くは、これ以後、人生を生き直すのである。

ここでは、宇宙飛行士アイズリのケースについて見てみよう。立花隆は彼についてこう語っている。

「いろんな人に会って、いろんな話が面白かったんだけど、人間的にすごく感じがよかったのはアイズリという人です。彼は、宇宙体験のあとすごく家庭的な人間になったというんですね。自分の持っているエネルギーを向ける方向が、ぜんぜん違ったものになった。
かつて自分はアンビシャスな人間であったけれども、今は自分のアンビションみたいなものに対してほ自分のエネルギーを割こうとはまったく思わなくなった。自分の家庭とか、自分自身の心とか、そっちの方向に自分のエネルギーは割かれるべきだと思って生活しているというんですね。

中と小の都市の間ぐらいの町で、平凡な生活をしている。自分にとってそれが幸福だというんですよね」

宇宙体験をする以前のアイズリは、世俗的な野心で一杯の男だった。異性関係でも発展家で、白血病の息子がありながら、妻以外の女性と深い関係になり、結局、離婚して愛人と再婚している。そんな男が宇宙から帰ってくると、平和部隊に入隊しタイのバンコックで奉仕活動をはじめ、タイから帰国後に地方都市で実業に従事することになる。(写真は宇宙飛行士時代のアイズリ)
(つづく)