甘口辛口

赤頭巾ちゃんを食べたオオカミ

2007/3/25(日) 午後 3:56
今日は日曜日で、恒例のNHK日曜政治討論をちょっと覗いたら、自民党と公明党の代表がブッシュのイラク戦争は正しかったと強調していた。イラク戦争が間違っていたことは、世界の誰もが承知し、当のブッシュ自身も認めているところなのだ。それを正当な戦いだったと強弁するのだから、自民、公明両党の「鈍感力」には敬意を表せざるを得ない。

自民・公明党がブッシュを弁護しようとしたら、まず彼の誤りを認めた上で、彼が間違ったのはCIAの報告を信じてしまったからだとか、サダム・フセインを早くつぶす必要があったからだとか、一歩退いた弁護の方法を考えなければならない。にもかかわらず、頭からイラク戦争は正しかったなどと言うから、「馬鹿じゃなかろうか」と失笑されるのである。

これに比べたら、石原慎太郎には未だ時代の空気を読む力が残っている。
彼は、今回の都知事選挙を戦うに当たって、浅間山荘事件で警官隊を率いた現場指揮官をブレーンにしている。タカ派として知られているこの元警察官僚は、石原候補の傲慢無礼な印象を薄める必要があると考えて、「とにかく選挙運動中は何時もニコニコしていてくれ」と注文を出し、石原もその要求を入れて、いたるところで笑顔を振りまいているという。

彼は又、演壇に立つと高額旅費問題や親馬鹿問題について下手な弁解をしないで、謝罪を繰り返しているらしい。こういう石原慎太郎の変身について、いろいろな評価がある。一番面白かったのは、都知事選挙を取り上げたテレビ座談会で、ある出席者が、石原の変身を、「赤頭巾ちゃんのオオカミ」に喩えていたことだった。

赤頭巾ちゃんの童話は、原作では残酷な結末で終わっている。病気の祖母を見舞いに出かけた赤頭巾ちゃんは、祖母に化けたオオカミに食われてしまうのだ。この世の狼男も、人をだますためにやさしそうな顔をすることが多いのである。

石原都知事がこれまでにやってきたことは、まさしくオオカミの行動そのものだった。
彼は都庁には週に三日しか出勤しないくせに、私欲のために都の金を盛大に使って来たのである。息子のために公費を平然と費消し、子分や忠臣らを引き連れて国の内外を大名旅行して歩いた。

だが、彼の本当の罪深さは別の所にあった。彼が犠牲にした赤頭巾ちゃんは、ヒューマニズムにほかならなかった。以前にも触れたが、彼が飽きもせずに繰り返す暴言には、赤い糸のようにアンチヒューマニズムという路線が一本通っている。年老いた女性をババア呼ばわりするかと思えば、障害者を差別する発言をし、「三国人」を犯罪者扱いする、挙げ句の果てに、彼は都の教育委員会が「君が代問題」を口実に数百人の教職員を処罰するように仕向けたのだ。

無思慮無反省な若者たちは、弱者、少数者や「人道主義者」を蔑視して粋がって見せる。こういう若者に迎合する石原知事の心事には、ポピュリズムに基づく計算だけにとどまらず、自らの本心の吐露という側面もあるのだ。アンチヒューマニストが、書斎で小説を書くのはかまわない。しかし、彼が政治の世界に乗り出してきて権力を振り回すようになることは、断固として阻止しなければならない。

ある作家は、都知事選挙で石原慎太郎が勝つだろうと予言し、その理由を「衆愚政治」のためだとしている。彼の予言通り、石原慎太郎は勝つかもしれない。だが、赤頭巾ちゃんを食べた祟りは、何時かはあらわれてくる。予言としては、こっちの的中率の方が高いのである。