自民党の若手議員らは、口癖のように日本を「普通の国」に戻そうと言っている。敗戦によって日本は「平和憲法」なるものを押しつけられ、国益を守るための戦争さえ出来ないようになってしまった。そのためアジアの周辺諸国から甘く見られ、言うに忍びないような侮辱を受けている。この際、日本は憲法9条を廃棄し、軍備を増強して、周辺諸国に威圧を与えるような国になるべきだ、というのである。
戦争放棄を宣言しているような弱腰の国だから、まわりの国から舐められるというのは、とんでもない錯覚なのである。先日、NHKテレビは、国際放送に関する啓発番組を放映したが、そのなかに興味深い調査報告が出ていた。「世界によい影響を与えている国」と「世界に悪い影響を与えている国」のランキングが公表されていたのである。
この調査はフランスの依頼を受けてアメリカの大学が行ったもので、世界によい影響を与えている国のトップに日本、第二位にカナダの名前が挙がっていた。この調査がいかなる指標に基づいて行われたか、そして世界各国へのアンケート調査がいかにしてなされたか、詳細は明らかにされていなかったけれども、とにかく日本は2年連続でプラスの方のトップを占めているらしいのだ。
世界に悪い影響を与えているトップはイスラエルであり、アメリカの評価もイスラエル並みに低い。日本が高い評価を受けているのは、イスラエルやアメリカと違って軍事力を重視せず、発展途上国援助を積極的に行い、文化面で対世界貢献をしているからなのだ。世界政治に対しても、日本は戦後ほぼ公正な態度を取ってきていると評価されている。
この調査報告に関連して、米国の大学教授が、「世界から尊敬されている国の製品は、各国民の購買欲を刺激するから、その国の国益にもかなっている」という意味のコメントを寄せていた。軍事力で他国を威圧するような国の製品が、他国から好意をもって迎えられるはずはないから、日本が平和国家の国是を掲げていることは商売上でも有益なのである。
国際問題を専門にしている学者達は、平和国家日本が世界各国民から好かれていると証言する。そして異口同音に、「たたし、アジアの近隣諸国民を別にして」と付け加えるのである。アジア近隣諸国が日本から多額の援助を受けながら、日本に反感を持ち続けるのは戦争中に日本軍から受けた被害を忘れないからだ。
本欄で生活雑記「暗い記憶」を紹介したけれども、日本兵から強姦されて殺され、恥部に棒を差し込まれた少女の死体を見て、中国人がどう思うか、わが身に置き換えて想像してみれば分かる筈だ。被害を与えた方は、一世代でそのことを忘れてしまう。だが、被害を受けた方は三世代にわたって怨念を燃やし続けるのである。
岸信介やその孫である安倍晋三は、先の戦争は正しかったという。
しかし、日本が三世代にもわたるような被害を近隣諸国に与えたことは、まぎれもない事実であり、日本は贖罪のためあと50年は、謹慎していなければならない。「普通の国」になるなどというのは、その後のことである。