朝日ニュースターの「パック・イン・ジャーナル」を見ていたら、麻生太郎外相のアルツハイマー発言が論議されていた。そこでの話によると、麻生太郎は周辺数メートルの人間を魅惑して味方にする才能があるそうである。ある出席者は、これを「麻生太郎のお座敷芸」と呼んでいた。
この政治家には、ほかにも奇妙な評判がつきまとっている。
秋葉原オタクの一員であるとか、マンガを愛好するというような風評である。そこで、「政治家には珍しく面白い男だ」ということになって、今回の参議院選挙でも応援依頼が殺到しているそうである。
彼は麻生財閥の出であり、青年会議所の会頭をやったり、「麻生セメント」の社長になったりしている。彼の「お座敷芸」は、若手経営者や実業界のボスとの付き合いの中で養われたものらしいのである。若手経営者・実業界のボスが、彼らだけで集まったときにどんなことを喋りあっているか、およその察しはつくのだが、そんな時に軽妙な言い回しで一座の笑いをとるのが麻生太郎だったというのだ。
経営者らは、自分たちだけになったときに、放送コードに触れるようなドキッとすることを語り合って互いの仲間意識を確かめ合っている。部外秘の発言を重ねることで、同志的結束や身内意識が強まるのだ。けれども、彼らも一応の教養を備えているから、反体制グループや反抗的な従業員らへの憎悪を生々しい形で語ることは避ける。そして、体制擁護のタカ派的理屈をこね回すことも、野暮なこととして敬遠する。
麻生太郎は自ら、「自分はババア芸者」に人気があると語っている。宴席での彼の言動には、裃を脱いだ洒脱な調子があって、海千山千の年功を経た芸者にも喜ばれているのである。彼は政界入りしてからも、実業界にいた頃に培ったお座敷芸で、同僚議員や新聞記者を煙に巻いてきた。その手法とは、四角四面の物言いを避け、本音を軽妙に語ることで相互の間に仲間意識を醸成するというものであった。
インターネットで調べてみると、麻生太郎の放言・失言の多さは石原慎太郎と肩を並べるほどである。しかもその論旨が弱者蔑視、アンチヒューマニズムの方向に大きく傾斜している点でも、石原慎太郎と実によく似ているのだ。彼はアルツハイマー発言で窮地に立っているが、それ以前にも「キチガイ」発言があるし、そして社会的差別としては野中広務に対する問題発言がある。麻生は「野中のような部落出身者を日本の総理にはできないわなあ」という旨の差別的発言をしたといわれる。
政治的にタカ派色の強い発言を繰り返している点も石原慎太郎と同じである。麻生は、日本が朝鮮に対して行った創氏改名政策を肯定し、北朝鮮が原爆を持つなら、日本も原爆を持つべきだと明言している。
これらの発言が、彼の本音で、私的な席で語られたものなら特にとがめはしない。「ババア芸者」をまじえた宴会の席上で、好きなだけオダを上げていればいいのである。だが、彼が為にする目的で喋っているとしたら、あまり感心したことではない。
小泉前首相が靖国神社参拝を強行したとき、麻生はクリスチャンであるにも関わらず、これを是認し、彼も神社を参拝している。それだけではない、天皇も靖国神社に参拝すべきだとまで言っているのである。万事がこういう調子で、彼は商売人らしい機を見るに敏なところを発揮して来ている。
彼は長らく小泉前首相の副官的地位に甘んじ、得意のお座敷芸で小泉の機嫌を取り結んできた。そして、小泉後の総裁選では、ライバルの安倍晋三が優勢だと見ると、安倍支持に回り、外務大臣のポストを手に入れた(本当は彼は、幹事長になりたかったらしいが)。そして、麻生は、安倍内閣成立以来、安倍晋三やこれを支える右派議員の機嫌を取ってきたのだ。
麻生は、「今の世の中、右翼の方がインテリじゃないか」とか、「自民党の右派の議員は、えらい理屈が通った話をする」と感心してみせる。そして、今回の選挙については、こんなことを言うのである。
「奥さん方にわかりやすく言えば、小沢一郎の顔をとりますか、安倍晋三の顔をとりますか? どちらが奥さんの趣味に合いますか。それが問われる」
まさに八さん、熊さんレベルの発言である。
彼は長野県知事選挙の頃に、田中康夫の体型について触れ、「ああいう体型はイヤだね」と田中候補の肥満体を顔をしかめてけなして見せた。麻生太郎が、晩酌をしながら奥さん相手にそうした感想を語るのはいい。けれども、新聞記者相手に公然と他人の体型をけなすのはどんなものだろうか。麻生太郎は、自分の容貌についても体型についても、よほど自信があるらしいのである。
お座敷芸で成功した麻生は、同じやり方を国政の場で実行して失言を繰り返している。小泉前首相が劇場型の政治を展開したにの対し、麻生がお座敷型の政治というのではあまりに淋しいではないか。
彼は所詮、副官型、秘書官型の政治家に過ぎないのだろうか。