甘口辛口

TVドラマへの注文

2012/4/8(日) 午後 11:56
TVドラマへの注文

このところ、日本製のTVドラマをいくつか覗いてみた。これまでは、特定の監督が演出した一、二の番組のほかは、民放放映のドラマを見ることはなかったのだ。私が今回見たドラマは、「告白」「推定有罪」「イノセント」などである。

「告白」は、クラスの生徒に娘を殺された女教師が、犯人たちに復讐するストーリーだというので、その異常な題材に興味を感じて視聴する気になったのだが、このドラマには致命的な欠陥があった。ドラマに登場する人物たちのセリフが、よく聞き取れないのだ。責任は、老齢の私の聴力が低下していることにあるかもしれない。だが、日本製の映画だとセリフは全部聞き取れるし、外国映画のセリフを日本語に吹き替えたものなら、私の耳でもちゃんと聞き分けることができるのだ。

TVドラマで俳優が低い声でつぶやいたり、逆に大声でわめいたりする場合になると、悲惨なことになる。彼らが何をいっているのか、皆目、分からなくなるのだ。俳優に求められるのは、発声法の訓練を徹底的に行って、一語、一語粒のそろった言葉をしゃべり得るようになることだ。訓練の出来ていない俳優ほど、セリフが不明瞭なうえに、早口になってしまうのだ。

私は、「告白」を見終わってからも、セリフをよく聞き取れなかったために、話の筋道が十分に分からなかった。それで、私はご苦労にも、わざわざ原作の本を注文して読んで見たのである。思い起こしてみると、高峰秀子などのセリフは実にハッキリしていて、話す速度・テンポが実によかった。彼女のセリフを聞いていて、いらいらさせられる箇所は一つもなかった。

照明についても、言いたいことがあるのだ。

背景の中から人物を浮かび上がらせるためには、正面から光を当てるだけでなく、側面や背後からも反射板などを使って弱い光を当てなければならない。ところが、「推定有罪」では、一方向からだけ照明を当てるので、登場人物の輪郭が後景の暗部に溶け込んで不分明になっている。ドキュメンタリー映画なら一方向からだけの照明でもいいのである。だが、人物の映像を印象的なものにしようと思ったら、対象を前から後から照らし出すことが不可欠なのだ。

以上の二つのこと、セリフの発声を明瞭にすることや照明に配慮することは、ドラマ制作のイロハだから、誰でも知っているはずなのだ。だが、作品を安上がりに、しかもスピーディーに作ろうとすれば、このへんを手抜きすることになる。こんなことを続けたら、韓流ドラマに圧倒されがちな日本のドラマが、いよいよ振るわなくなるだろう。

私は、日本のテレビ業界に、多くのことを要求しているのではない。もう少し視聴者に対して親切な作品を作ってほしいと望んでいるだけなのだ。