格付けしあう女たち
ワイドショウを見ていてオヤオヤと思った。西川史子に対してデビ夫人が食ってかかっていたからだった。正直に打ち明ければ、愚老にとってテレビで顔を見たくない女性タレントの双璧は、デビ夫人と西川史子だったのである。その二人が食うか食われるかの喧嘩を始めそうになっていたから、こっちはびっくり仰天してしまったのだ。
この騒動には、分からないことが多すぎた。そもそも事件の発端からして分からないのである。
事件は、ワイドショウの席上でデビ夫人が、出席していた女性参加者の顔を平手打ちにしたことから始まったらしい。いったいデビ夫人は、何故そんなことをしたのか、関係者が一様に口をつぐんでいるので、肝心かなめのその理由が分からないのだ。それよりもっと分からないのは、なぜデビ夫人が西川史子に噛みついたのかという点だった。デビ夫人は、「殴ってやりたいのは西川史子の方だった」とまでいっているのである。
何時もだったら、この事件を大々的に取り上げるはずのテレビのワイドショウも不思議なくらいに沈黙を守っているし、週刊誌も何故かこの事件には触れないようにしている。それだけではない、マスコミが触れないでいる問題がもう一つあった。愚老の記憶に間違いがなければ、デビ夫人が暴力を振るったことを理由に女性から告訴されたことは以前にもあり、この点に関して夫人は前科者だったのである。
デビ夫人は、もともとアメリカやフランスの「社交界」で「活躍」していて、日本のワイドショウなどに顔を出すことはなかったのだ。それは彼女が日本のテレビ業界を軽く見ていたからではないかと思われた。それが活動の場を日本に移したのには、アメリカで暴力事件を起こしたことが響いていると推察される。そうだとしたら、いよいよ彼女の昔の古傷を洗い出し、今回の事件と比較する必要がでてくるのではないか。
事件に関する中途半端な報道に首をひねっているうちに、やっと「週刊文春」がこの件を取り上げてくれたので、事件の概要を知ることが出来た。問題の平手打ち事件が起きたのは、バラエティ特番「奥様はモンスター」という番組のなかでのことで、デビ夫人に殴られたのはこの番組に出演した亭主を召使いのように扱っているモンスター妻だったのである。
このモンスター妻は登場すると、事前にディレクターに指示されていたとおりにデビ夫人に絡み始めた。
「私もホステスやっていますが、デビ夫人も赤坂の『K』にお勤めでしたね。どうやってインドネシア大統領夫人という玉の輿に乗れたんですか?」
「デビ夫人って未亡人ですよね。何で今も夫人って名乗っているんですか?」
小馬鹿にした言い方でモンスター妻から挑発されたデビ夫人は、みるみるうちに鬼の形相になって言い返した。
「あんたみたいな人工的な顔をした・・・・」
すると、デビ夫人の後ろに座っていた西川史子が口を挟んだ。
「人工的な顔かどうかは関係ないでしょう」
デビ夫人は、今度は西川に噛みついて、「あんたは・・・・、いつも私に対して・・・・」
場が混乱状態に陥ったときに、モンスター妻がまた口を出したのだ、「人工的な顔って、どういう顔ですか?」
その瞬間、デビ夫人が立ち上がって相手に歩みより、三発殴りつけ、四発目の拳を振り上げたときに、駆け寄ったスタッフらに羽交い締めにされ、抱き留められたのであった。「週刊文春」の筆者は、このときのデビ夫人について、「せめてもう一太刀、浅野内匠頭のようにあがき続けるデビ夫人」と迫真の描写をしている。
週刊誌の記事は、更に殴られたモンスター妻が後藤田正純代議士の不倫相手だったホステスであること、事件後にデビ夫人と被害女性は200万円の示談金で手打ちをしたらしいことなどが記されている。
(つづく)