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悪の中の最悪なるもの

2014/6/13(金) 午後 3:13
悪の中の最悪なもの

内村鑑三は生前、「悪の中の最悪なるものは戦争だ」と言っていた。内村が戦争を最悪なものだと考えた理由は至極簡単だった。戦争とは、人を殺し合うことだったからだ。

「戦争に行く」ということは何と美化しようと、人を殺しに行くことなのである。「敵の侵略を阻止するため」とか、「世界平和のため」とか言っても、銃を手にして戦場に赴くのは、人殺しのためなのだ。日頃、人権擁護とか、人間一人の命は地球より重いと言っていたくせに、戦争が始まったら何の恨みもない人間を平気で殺しに出かけるのだ。人はこの明々白々な矛盾から目をそらして、戦争を是認するのだから、どこか頭が狂っているのである。

日本国憲法は、戦争を放棄し、戦力を持たないことを明記している。国が裸のまま無防備でいることに決めたのは、無抵抗な国を攻撃しないという諸国民の善意を信頼したためだった。永世中立国を国是にしているスイスを攻撃する国がないように、戦争放棄を誓った日本を侵略する国はない筈だと信じて、日本人はこの「平和憲法」を受け入れたのだった。

かくて日本はスイスと並んで、世界から特別扱いされる国になった。ナチス・ドイツと組んで無頼漢のように振る舞ってきた戦前の日本国に対する悪感情も融和され、中には日本に敬意を払う人々も現れた。外国で暮らす日本人は、この憲法ある故に自国に誇りが持てたのである。

だから、日本国内の保守派が逆コースを選択し、平和憲法の廃棄を主張し始めたとき、ロンドン大学で教鞭を執っていた日本人の学者は、こう反論したのである。

──保守派は、「戦争放棄して軍備を持たなかったら、必ず侵略される。だから、憲法を改正して日本も普通の国になり、自分の国を自分で守ることが出来るようにすべきだ」という。私は日本を侵略するような国が現れるとは思わないが、もしそうなったら甘んじて侵略されればよいと考えている。

──その上で、占領軍に対してサボタージュ戦術で戦えばよい。占領軍の使用する通信網や交通組織を混乱させるだけで、そして占領軍の雇用に国民が一切応じないだけで、彼らは日本から退去せざるを得なくなるだろうと。

先進国の国民が結束して占領軍と戦うつもりになったら、弾丸を一発も発射することなく征服者である占領軍を屈服させることができるのである。武器を持って戦うよりも、この方がよほど効率的な戦いになる。第一、この方法だと敵を殺さなくても済むし、こちらも戦死者を出さずに済むのだ。

安倍首相は、集団的自衛権の行使容認をめざして、中国や北朝鮮による日本攻撃の危険性をPRしている。わが国のリーダーも遂にここまで落ちたかと嘆かずにはいられない。これでは、太平洋戦争を始める前に「鬼畜米英」を合唱して国民の憎悪感情を煽り立てた戦前の戦犯政治家たちと同じではないか。一国のリーダーは、感情に走って他国を罵る自国の政治家や自称愛国者らを制止しなければならないのに、逆のことをしていたのだった。

中国の江沢民や韓国の現大統領は、為(ため)にすることがあって自ら反日世論の醸成に乗り出した。これは自身の利益のために国を売る行為であり、自国に仇なす行為なのである。為政者のこうした行動は、結局、負の結果になって国に戻ってくるからだ。

安倍首相が中国の巨大軍備を非難し、これに備えてわが国も軍備を増強して有事に備えなければならぬなどと言えば、中国は軍事費をいよいよ増やすに決まっている。中国に自制させるためには、「日本は憲法9条の精神を守って、平和外交を推進します」と声明を発すべきなのだ。

日本国民は、安倍晋三に忠告しなければならない。日本国はあなたのものではない、日本という国を私物化してはならないと。